干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

二人の会話

 美琴が足音のする方へ目を上げると、肩で息をしながら近づいてくる副社長の顔が見えた。


「あ、あの。副社長が見てます……」

 美琴は慌てて、雅也の胸を両手でぐっと押す。

「へぇ。来たんだ……」

 雅也はゆっくりと頭を持ち上げ、美琴の腕から手を放した。


「雅也……。もう、うちの社員を返してもらうぞ」

 副社長は低い声でそう言いながら近づくと、美琴の腕をぐっと掴み自分に抱き寄せた。

 美琴は手を引かれるがまま、副社長に身体を預ける。


「社員ね……」

 雅也は前髪を片手でかきあげながら、鋭い目つきで振り返った。


 しばしの間、副社長と雅也は無言でそのまま向かい合っていた。

「美琴ちゃん。ごめんね。少しだけ俊介と話がしたいんだ」

 沈黙を破るように、雅也は眉を寄せてそっと美琴に顔を向ける。

「……はい」

 美琴の言葉を聞くと、副社長の腕の力がふっと抜け、美琴はよろけるようにその腕から離れる。


「入り口の所で、待っていてください」

 見上げると、副社長が穏やかな表情で頷いていた。
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