干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

突然の出来事

 定時が過ぎ、美琴はロッカーでのろのろと着替えをすます。

 頭の中では、昼間の朔人とのやり取りが何度も繰り返されていた。


「結局、今日は何も手につかなかった……」

 朔人と美琴が話をしていたことは、副社長室のメンバーは誰も知らないようだった。

 もちろん副社長も……。


 ――どうしたらいいんだろ……。


 美琴は潤んでぼやける瞳で、ロッカーの扉をパタンと閉じる。

 会社のエントランスを抜け、歩道をとぼとぼと歩いた。


 あの夜、美琴は副社長の事をもっと知りたい、もっと近づきたいと思った。

 ――でも、私との関係が変な噂になれば、社内での副社長の立場を危うくしてしまう。

「かと言って、プレゼンを降りるなんて、できるはずがない……。せっかく掴んだチャンスなのに」


 美琴はどうしたらいいのかわからず、何度も頭を振った。

 その時、鞄の中でスマートフォンが着信を告げる。

「え……。水上さん?」

 美琴は画面を見つめながら歩道の端に寄り、ゆっくりと通話ボタンをタップした。
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