干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

忍びよる足音

 夜空には、秋らしい柔らかな光で星が瞬いている。

 それでも美琴の目線の先に映るのは、副社長と一緒に見た屋上からの景色だった。


 ――私、何やってるんだろ。


 雅也と同じように、副社長もまた今の関係を後悔しているように感じていた。

 それなら自分が出来る事をしたい、そう思って突っ走ったのに、結局何も状況は変わっていない。

 いやむしろ、より複雑になってしまったんじゃないだろうか。


 美琴がため息をついた時、再びスマートフォンが着信を告げた。

「もしもし……」

 ぼんやりと出た美琴の耳に、今まで聞いたことがない程大きな滝山の声が響いた。


「と、友野さん! 今どこにいるの?!」

 滝山の声に美琴は若干気後れしつつ辺りを見回す。

「えっと……駅に向かってるとこだけど……」

「今すぐ会社に戻って! 僕たちも向かってるから!」

 食い気味に叫ぶ滝山の切羽詰まった様子に、美琴はだんだんと心臓が激しく動き出す。


 ――何? 何があったの?!


 美琴は不安でたまらず、スマートフォンを握りしめて駅までの道のりを全力で走った。


『く、詳しい事はまだわからないんだ。でも、とにかくすぐ来て!』


 頭の中で滝山の声が響いている。

 美琴は雅也との事が別世界だったかのように、現実に引き戻されていた。
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