干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

泥船の浮上

「き、今日でこれを取り壊すなんて、もったいないよね」

 突然、耳元で滝山の声が聞こえ、美琴ははっと我に返る。

 今日は朝早くから、イベント会場に壁面装飾のメンテナンスに来ていた。

 反応がない美琴の様子に、滝山が首を傾げる。


「ごめん。ちょっと考え事してた……」

 美琴は、慌てて水やりの続きをするために手を動かすが、頭の中では昨夜の雅也との会話を何度も思い出していた。

 自分はうまく、雅也を励ますことができたのだろうか。

 そして……。


 ――じゃあ、SNSの人は誰なんだろう。


 雅也がSNSの人でないとわかった今、その存在はまた闇の中に入ってしまったようなものだ。


 再び美琴がぼんやりしていると、滝山が美琴の腕をグイっと引っ張った。

「み、見て見て! テレビカメラも入ってる」

 滝山が指さす方に顔を向けると、マイクを持ったレポーターらしき女性とカメラマンが打ち合わせをする姿が見える。

「へえ」

 美琴達がカメラの存在を気にしていると、その様子を見つけたイベント会社の女性が駆け寄って来た。
< 277 / 435 >

この作品をシェア

pagetop