干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

カップの行方

 新しいフロアは、メンテナンス部の隣に準備されていた。

 部長が一番奥の上長席に座り、奥から美琴と滝山、その向かいに瑠偉と胡桃のデスクが置いてある。

 五人だけの小さな島だ。


「これからメンバーも増えるってのは、すぐなんすか?」

 瑠偉が荷物を片付けながら、部長を振り返った。

「いや、すぐには考えてない。まずは二か月後に迫った展示会を、全力で乗り切ってからだな」

 部長はパソコンの配線をつなぐためか、デスクの下に潜り込んだままで答える。


「あれ? おかしいな。この線どこに繋がってるんだ……?」

 部長の独り言が漏れ聞こえた。

「私、上から引っ張りましょうか?」

 美琴は、部長のデスクに回り込み声をかける。

「すまん。頼む」

 配線を引きながら、美琴はふと机の上に目をやった。


 ――あれ? そういえば……部長のカップって。


 今、机に置いてあるカップは、メンテナンス部の時に部長が使用していたものだ。

 あの渓谷、コバルトブルーの滝つぼの風景画が描かれたカップは、どこにも見当たらない。
< 319 / 435 >

この作品をシェア

pagetop