干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

干物の決心

「美琴ちゃん。ちょっとだけ良いかな?」

 俊介が部屋を出たのを確認してから、健太が美琴に声をかける。

「はい……?」

 美琴は首を傾げながら、健太の向かいに腰をかけた。


「俊介に口止めされたんだけど、美琴ちゃんには話した方がいいと思って……」

 健太は先程までの、社長室でのやりとりを美琴に話して聞かせた。


「え……」

 美琴はしばし絶句する。


「鷺沼を頼ったが最後、俊介は一生鷺沼に逆らえなくなる。当然、今上がっている婿養子の話も断れなくなると思う」

「そんな……」

「まさに万事休すって、こういう事を言うんだね」

 健太はあははと笑いながら、今にも泣き出しそうな顔でうつむいた。

 そして震える拳を、膝の上で握りしめている。


「俊介のことだ。きっと鷺沼に頭を下げる決断をすると思う。緑化事業部と会社と社員を守るために」

 健太はゆっくりと顔上げると、目を見開いたまま動けずにいる美琴を見つめた。


「美琴ちゃんと幸せになるっていう、自分の想いを犠牲にしてね……」


 物音ひとつしないフロアでは、パソコンのファンの回る音だけがやけに大きく耳に響いていた。
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