干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

懐かしい景色

 美琴は駐車場に車をとめると、駆け足で先を急いだ。

 昨夜(ゆうべ)から一睡もせず長時間の運転をしたにも関わらず、不思議と身体は軽かった。


 ここの気温はやはり都心に比べるとだいぶ涼しくて、澄んだ空気が心地よく肌にあたる。

 しばらく進むと、目の前にあの懐かしい佇まいの土産物屋が見えてきた。

 雅也とボランティアに来て以来なのに、その様子は時が止まったように数カ月前と何一つ変わっていない。

 ゆっくりと近づくと店の前は休日だからか、朝早くから山登りをする人で賑わっていた。


 美琴はお客の間からそっと顔を覗かせる。

 すると店の奥で美琴の顔を見つけた福さんが、パッと笑顔になった。

「よく来たねぇ。大変だったでしょ」

 福さんは相変わらずサンダルをぱたぱたと鳴らしながら、大きなやかんと湯飲みを持って来た。


「雅也くんから電話があった時はびっくりしたけど、ちょうど良かったよ。ボランティアの人たちが出る前だったからね」

 福さんは美琴を野点傘(のだてがさ)の下に腰かけさせると、冷たい麦茶が入った湯飲みをぽんと置いた。

「本当に急にすみません……。もう、ここしか頼れるところがなくって」

 美琴は福さんの優しい笑顔に触れ、涙ぐみそうになりながら声を出した。
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