干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

前日の訪問者

 次の日から緑化事業部は、休み返上で展示会までの数日間を準備に追われていた。

 胡桃が作り直した渓谷をモチーフにしたデザインは、開催直前にも関わらず主催者からよい返事がもらえた。

 シンボルツリーとしてエントランスのブナの木をテントの横に配置し、渓谷から持って来たカエデやミズナラ、サワシバの木を後方に、そこから滝が流れるという印象的なデザインだった。


 美琴がこだわった滝つぼのコバルトブルーの色の装飾は、ライトを駆使してみんなで試行錯誤しながら造り上げた。

 周りには渓谷でも人気のあるシャクナゲを、囲むように置く予定だ。



 そしていよいよ明日は緑化事業部全員でドームに行き、メインスペースの設置を行う。

 展示会自体は週末の二日間で開催されるが、規模が大きいためその前日が各社の準備日として設けられていた。


 夕方になり、美琴は一人温室で装飾の最終チェックをしていた。

 今でもふとした時に浮かぶ俊介の顔を、心にとどめたまま忙しく手を動かす。


 由紀乃から婚約の話を聞いた日以来、俊介の姿は見かけていないし、俊介自身が会いに来ることもなかった。

 時々来ていたメールも、ぱたりと止まった。


 ――副社長は会社と社員の事を、誰よりも大切にする人だもん。もうこれで良いんだ……。


 美琴は何度も自分に言い聞かせる。
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