エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~

慧side

疲れていたのか、詩乃はすぐに静かになった。
しばらく寝息に耳を傾ける。
青白い顔をしてはいるが、ちゃんと寝ている詩乃を確認すると、深い息を吐いた。とりあえず、少しは休めるだろう。

店での出来事を思い出すと、腸が煮えくり返る。彼女の心に、よくも傷を負わせてくれた。同時に、脇の甘い自分も情けなかった。

(プロが聞いて呆れる)

自分の感情が入った時点で警備には隙が出来ていた。
警護より、感情を優先するなんてどうかしてる。
この仕事は常に冷静でなくてはならない。

彼女をかわいそうだと思った。ずっと不安そうにしている詩乃を笑顔にしたい。
わずかな願いごとでも叶えてやりたいと思う。それに、あんな可愛い顔で恥ずかしいと言われれば、紳士的な振る舞いをしなくてはと思ってしまったのだ。

それにしても、詩乃は夕食の前あたりからどうもぎこちない。
やっと打ち解けてきたかと思ったのに、様子がおかしいと感じたのは海吏が余計なことを言ったあたりからだ。

どのあたりが彼女に気にさせてしまった原因かはわからないが、海吏には、今日の出来事を差し引いても説教をするに値する。

詩乃がごろりと寝返りをうつ。
間近に顔がきて、目を見開いた。

「んん……」

詩乃は苦しそうに顔をゆがめる。

「大丈夫だ」

とにかく安心させたくて、囁いた。少しくらい触ってもいいかなと、ふわりと頭を撫でてみる。

(もっと触れたい)

欲を抱いた手はそのまま頬をひと撫でしてやっと離れた。

(もう少しだけ)

我慢できなくて、ベッドに置かれた手にそっと指先で触れてみる。すると詩乃は俺の手を握った。
はっと息を飲む。赤ん坊のような仕草に、盛大に照れた。
起こしてしまったかと思ったが、すやすやと眠っている。

「まいったな……」

彼女から目を離せない。

ーーーー可愛くてたまらない。

詩乃が寝れば自分も眠れるだなんて言ったが、これでは嘘つきになりそうだ。
< 28 / 67 >

この作品をシェア

pagetop