エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~

慧side


泣き疲れ腕の中で眠る詩乃に、場にそぐわない不謹慎な気持ちがわき上がっていた。

ーーーー可哀想に。

けれど、可愛くてたまらないとも思う。
このまま、もっと俺に依存すればいい。
事件を解決させてやりたい。安心させてやりたい。そんな思いと一緒に、邪な気持ちも持ち合わせていた。

泣いてばかりの彼女はなにも手につかず、俺から離れなかった。
辛うじて着替えだけをさせて、ベッドにダイブだ。
それにしても、今回の犯人はいったい誰なのだろう。

以前の男ではない。
詩乃には内密にしているが、海吏の店で捕まえた男は過去に盗撮や尾行を繰り返したストーカーではないことがわかっている。

ただの過激なファンというだけで、写真はネットで買っていたし、あの日は本当にたまたま見かけて犯行に及んだらしい。
男には監視をつけていて、パーティーの時間は自宅にいた確認がとれている。

フロントに手紙を預けたのは女。
ルームサービスを注文したのも女の声。
しかし、手紙は自分を僕と言っていて、まるで男のようだ。

俺が詩乃に付き添うようになってからは大人しくなっていたが、とうとう動き出したのか。
天笠家はこぞって犯人は男だと証言していたが、根拠はストーカーからの手紙の一人称がすべて ”僕“ だったというだけだ。
そもそも、それが間違っているんじゃないか?

婚約が決まってからは、目立つように行動していた。それは勿論、相手に俺の存在を認知させる為だ。
だから 犯人が、“詩乃に男がいる” ことまでは知っていても不思議ではないが、どこの誰かという情報までは、どうやって調べたのだろう。

パーティー参加のことも、このホテルに滞在していることも、どのようにして知ったのだろう。

「もしかしたら……」

思い当たる点があった。
再確認をすべきかもしれない。

「俺はまた、辛い思いをさせてしまうのかな」

< 41 / 67 >

この作品をシェア

pagetop