モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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(探りを入れるか……)
「ちなみに榎本さん……聖女は、今どこにいるんです?」
「例の離宮だ。マキ殿にはあそこに住んでいただいて、クリスティアン殿下がそこに通われて、治療を受けられる流れになる」
「それって、毎日ですか?」
「殿下のご病状に関わることだ、お前には話せない。……というより、なぜこだわる?」
 グレゴールが、じろりを私を見すえる。威圧するような鋭い眼差しに、私は観念した。
「そのお……。グレゴール様は、私をクリスティアン殿下の側妃に、と仰っていますけれど。聖女の彼女の方が、見初められたりはしないかなって。あ、ほら、召喚された者同士で争うって、嫌じゃないですか」
 露骨なやきもちはみっともないから、慌てて言い訳してみたのだけれど。グレゴールは、お見通しだったみたいだ。愉快そうな笑みが、顔中に広がった。
「は! やたらくねくねして、何を考えているのかわからん奴だと思っていたが、お前案外負けず嫌いだな」
「ちょっ……、くねくねって、何ですか……」
「安心しろ。聖女は、妃にはなれない決まりだ」
 え、と私はグレゴールの顔を見上げた。彼が繰り返す。
「たとえクリスティアン殿下がマキ殿を気に入られたとしても、正妃はもちろん側妃にすることも、この国では禁じられている」
 ほう、と私はため息をつきたくなった。だが、とグレゴールが付け加える。
「油断するのは早いぞ。側妃の座を狙っている女は、ごろごろいる。有力なライバルもいるぞ?」
「誰です、それ?」
 私は身を乗り出したが、グレゴールはそれには答えなかった。
「……まあ、おいおいわかるさ。ところで、俺も安心したぞ。見てくれだけの使えない女かと危ぶんでいたが、思ったよりたくましそうだ。その調子で、頑張るとよい」
 褒められているのかけなされているのか、と私は眉を寄せた。それと、とグレゴールは微笑んだ。
「お前は、食事のマナーが良い。それは、重要視される美点だ。自信を持て」
「あ……、ありがとうございます」
 たまたま経験があったのと、家庭で厳しく躾けられたからなのだけれど。私は、びっくりするくらい喜びが湧き上がってくるのを感じていた。
 この世界に来てからダメだしばかりだったけれど、グレゴールに初めて褒められた。それは、思いのほか嬉しかったのだ。
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