モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
第四章 何かが変化してきた気がする

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 何だかんだで、私がこの異世界イルディリア王国へ来て、一ヶ月が経った。その夜、晩餐を終えた後、私はメルセデスを部屋へ招いてファッションショーをしていた。仕立屋に頼んでいた私のドレス類が、仕上がったからだ。
「どれもハルカによく似合うわ。舞踏会へは、どれを着て行こうかしらね? 迷うわ」
 嬉しそうにドレスを一着ずつ手に取りながら、メルセデスが言う。私は、改めて礼を述べた。
「色々アドバイスしていただき、ありがとうございました。おかげで、素敵な衣装がそろいました」
「あら、そんなこと! 私も楽しかったから、いいのよ。こうしていると、まるで妹ができたみたいだわ」
 メルセデスは、にこにこと答えた。
「正直、姉妹って憧れてたのよねえ。あんな堅物の弟が一人いるだけだから、余計に」
 メルセデスは、ドレスを吟味する手を止めると、ふうとため息をついた。
「グレゴールといえば、心配なのよねえ。そろそろ女性にも目を向けてくれないと。今度の舞踏会など、良いチャンスだと思うのだけれど……」
「男性の方が、結婚が早いのですか?」
 私は、やや疑問を覚えた。確か、ここでの結婚適齢期は、三十代後半と言っていなかったか。グレゴールは、まだ二十八歳と聞いているが……。
「いえ、そんなことはないわよ。でもグレゴールの場合は、あまりに恋愛に無関心だから、姉としては気が揉めるわけよ。私たちは、早くに親を亡くしたものだから、あの子は若くしてこの家の当主になったの。そのせいかしら、仕事一筋の性格になってしまって。まあ、おかげで出世はしたのだけれど……」
 メルセデスは、眉をひそめている。励まそうと、私は明るい声を上げた。
「でも、グレゴール様はすごいじゃないですか。宰相になられてから、敵対関係にあった国々との関係を、あっという間に改善なさったとか。貿易も、順調なのですよね?」
 それは、毎日グレゴールと話すうちに、何となくわかったことだった。おや、とメルセデスが目を見張る。
「ハルカがそんな風に思っていたなんて、意外だわ。前に、あなたとグレゴールの会話を聞いたことがあるけれど、そういう話題になっても、あなたは反応が薄かったじゃない?」
「あ、それはグレゴール様ご自身に注意されたからなのですけど」
 私は、家庭教師に『すごい』と反応してたしなめられた件を話した。
「そんなことが……?」
 メルセデスは驚いたように聞いていたが、やがて微笑んだ。
「ハルカは真面目なのね。それは多分、些細なことで、心のこもらない賛辞を連発したせいじゃないかしら? 本当に『すごい』と思っているなら、素直に褒めた方がいいわ。心からの褒め言葉って、誰でも嬉しいものよ?」
(そっか……)
 私は、少し反省した。私が融通が利かなかったせいで、もしかしてグレゴールを傷つけてしまったかもしれない。価値観が違いすぎるせいで、最近は臆病になっていたけれど、素直な会話を心がけてみようか……。
 折しも、そこへノックの音がした。グレゴールだった。
「今、大丈夫か? 少し時間ができたから、話さないか」
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