モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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「はい……」
 私はメルセデスに断ると、テラスへと移動した。グレゴールとのお喋りタイムは、いつもここである。ここイルディリア王国は、たいそう気候が良いため、夜でも十分暖かいのだ。私たちは、テーブルセットに向かい合って腰かけた。
(えーと、何の話題を振ろうかな)
 先ほどのメルセデスの指摘は気になっていたが、いきなり昔の仕事の話題をするのも唐突だ。考えあぐねた末、私は無難な質問をした。
「そういえば、榎本さん……マキさんて、お元気ですか?」
 榎本さんのことは、純粋に気がかりでもあった。この前グレゴールに、ミユキちゃんの話をしたことで、私は何だか憑き物が落ちたようにスッキリしたのだ。根強かった『サバサバ女子』へのわだかまりも、徐々に薄らいできていた。
(いきなり異世界なんか来て、聖女の仕事をさせられてるんだものね。大丈夫かな……)
「ああ、心配ない。元気に活躍しておられるぞ」
 グレゴールは、あっさり答えた。
「おかげで、クリスティアン殿下のご体調も大分回復された。俺としても、ひと安心だ」
 彼は、心底安堵した様子だった。
「殿下にもしものことがあれば、イルディリア王国転覆の危機だったからな。聖女さまさまだ」
「転覆って……。ずいぶん大げさですね。ああそうか、他に王子様はいらっしゃらないんでしたっけ?」
 私は、前にチラッと聞いた話を思い出した。さよう、とグレゴールが頷く。
「それゆえ、クリスティアン殿下に万一のことがあれば、次期王位継承者は、現王弟殿下のベネディクト様だ。それだけは、何としても避けたかった」
 グレゴールが、顔をゆがめる。私は、怪訝に思った。
「その方だと、まずいのですか?」
「まずい、などというレベルではない。ベネディクト殿下は……、何と言うか、何事も暴力で解決なさろうという節がある。今は軍部を指揮する立場にあられるのだが、たびたびそのお立場を濫用しては、軍事費を増やし、軍備を増強しようとされる。隙あらば他国へ戦を仕掛けようとなさるので、国王陛下は頭を痛めておられるのだ」
 まあ、と私は眉をひそめた。
「その狙いは、他国からの資源の強奪だ。だが戦となれば、多くの国民の命が失われるし、国力は疲弊する。第一、そのやり方ではいずれ限界が来る」
 日本にいた時にニュースで見た、他地域で起きていた紛争の映像が思い出される。私は、深刻に頷いた。
「一方クリスティアン殿下は、戦は避けて、周囲の国々とは友好関係を築かれるおつもりだ。そして外交交渉により、資源を好条件で輸入する。どちらが賢明な手段かは、明白であろう?」
 イルディリア王国は、穏やかな気候と自然に恵まれているものの、燃料や食糧などの各種資源に乏しいのだ。加工貿易に重点を置いているるため、職人の養成に力を入れているのだと、家庭教師からは習った。ちょっと日本に似ているなあと思ったものだ。
「なるほど。それでは絶対に、クリスティアン殿下に国王になっていただかないといけませんね」
「さよう。特にロスキラは、様々な食糧資源に恵まれた国だから、是非とも関係を改善したかった。俺はずっと、そのために奔走してきたんだ。そしてついにこの度、殿下とマルガレータ王女とのご婚約成立に漕ぎ着けた。ところがその矢先に、殿下のご病気だ」
 グレゴールは、眉をひそめた。
「そこで俺は、ご結婚までに何とかお治ししようと知恵をひねり出し、聖女召喚という方法を取ったわけだ」
 仕事一筋、というメルセデスの言葉が、ふと蘇った。グレゴールは、本当に真面目な男なのだろう。国を思い、主を思い……。
(立派な人、だな……)
 そう思うのに、なぜか私は、そう口にすることができなかった。かつてはどんな男の人にも、つるっと言えていた言葉なのに。しかもメルセデスにも、助言されたばかりだというのに。いざグレゴールを前にすると、私は何だか固まってしまった。沈黙が、流れる。
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