モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

3

「さて」
 不意に、グレゴールが立ち上がる。そして、とんでもない言葉を続けた。
「ダンスの教師だが、もう断ったぞ。お前のステップは、もう完璧だそうだから」
「えっ、ダンスのレッスンて、終わりなんですか?」
 急な話に、私はびっくりした。
「ああ。後は仕上げとして、俺が見てやる。前に言っていたろう?」
 確かに舞踏会は、二週間後に迫っている。すでに歩き始めているグレゴールの後を、私は慌てて追ったのだった。
 グレゴールは、私を広間へと連れて行った。ここは、私が住んでいたワンルームの部屋が五つは入るんじゃないか、というくらい馬鹿でかい。踊るには、十分な広さだ。
(何だろ。ドキドキする……)
 グレゴールと向かい合ったとたん、なぜだか奇妙な緊張が、私を襲った。これまでのダンスの先生も男性だったけれど、体を密着させて踊っても、何とも思わなかったというのに。
(ていうか、こうして見ると、結構鍛えてるよね……)
 文官というと、あまり運動していなさそうなイメージなのだけれど。近くで見ると、グレゴールの肩幅はかなりがっしりしている。元々背も高いから、何だか威圧感すら感じた。寄せられた胸板は厚く、私の体に回された腕は、服の上からでもわかるくらい筋肉が盛り上がっている。
 ハッキリ言って、日本にいた頃付き合ったどの男性より、マッチョだ。私は、目のやり場に困ってしまった。それに気付いたのか、グレゴールがクスッと笑う。
「そう固くなるな。流れに任せて楽しめ。その方がいい」
「は、はあ……」
 やってみるのは、舞踏会では必須のワルツだ。グレゴールが口でリズムを取ってくれて、私たちは踊り始めた。
(あ、上手……?)
 これまで習っていた先生以外に、踊った相手はいないのだけれど。それでも、彼のリードがスムースというのは、何となくわかった。
(顔も良いし、仕事もできてダンスも得意ってか。それなのに、恋愛に興味ないとか、もったいないな……)
 グレゴールの彫りの深い顔を見上げながら、私は密かに思った。
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