モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

3

 ぼんやり目を開けると、大勢の人影が目に飛びこんできた。何やら困惑気味に話し合いながら、こちらを見ている。
 視界が、だんだん鮮明になってくる。そこで私は仰天した。私を囲んでいるのは、金色や銀色、はては青色や赤色の髪をした男たちだったのだ。
(外人……?)
 私は、懸命に記憶をたどった。地下鉄の駅の階段を降りる途中で、すごい突風に遭ったんだっけ。この人たちが、助けてくれたのだろうか。
 それにしても、彼らは妙な格好をしていた。やたらと丈の長い上着を着て、首にはひらんひらんしたレースを巻いている。まるで、中世ヨーロッパのお貴族様みたいだ。
(何かの、コスプレ……?)
 その時、私を取り囲んでいた男たちが、さっと道を空けた。一人の青年が、眉をひそめながら近付いて来る。彼の顔を見たとたん、私は一気にテンションが上がるのを感じた。
(すごいイケメン!!)
 頭の中を、感嘆符が駆け巡る。青年は、人形のように整った顔立ちをしていたのだ。肌は抜けるように白く、瞳はコバルトブルーで、髪は透き通るようなプラチナブロンドだ。まるで、アニメに出て来る王子様みたいだった。年齢は、二十歳過ぎ……といったところだろうか。
「なぜ、二人もいるのだ?」
 青年が、じろりと男たちを見回す。とたんに男たちに、緊張が走るのがわかった。
(二人……?)
 そこで私は、はじめて榎本さんが横にいるのに気付いた。すっかり気を失った様子で、床に倒れ込んでいる。そして私たちがいるのは、見覚えの無い部屋だった。天井がやたらと高く、アンティーク調の家具が並んでいて、床には手触りのいい絨毯が敷き詰めてある。
(一体、何が起きてるの……?)
 さっぱり把握できずにきょとんとしていると、一人の男が青年の前に進み出た。
「クリスティアン殿下。召喚は、確かに成功してございます。聖女は、この二人のどちらか。もう一人は、何らかの手違いで、共に召喚されてしまったのでしょう。遙か昔の文献に、そのような事例がございました」
「聖女がどちらなのかは、すぐにわかるのか?」
「本物の聖女であれば、我がイルディリア王国の紋章の刻印が、体のどこかにあるはず。それで見極められましょう」
「さすがグレゴール。何事も、よく知っておるな」
 私は、飛び交う言葉を呪文のように聞いていた。
(殿下? 召喚? 聖女……?)
 もしかしてこれは、よく聞く『異世界転移』とかいうやつなのだろうか。ラノベは読まない私だけれど、それくらいは知っている。
(そうか、私は聖女として、どこかの異世界に呼び寄せられたのね……!)
 すると突如、榎本さんがぴょこんと飛び起きた。気を失っていたんじゃなかったのか。
「紋章の刻印って、もしかしてこれですか?」
 言いながら榎本さんが、腕を突き出す。彼女の左手首の内側には、十円玉くらいの大きさの痣があった。何やら、動物のような模様だ。それを見たとたん、周囲はどよめいた。
「こここ、これは! まさしく王家の紋章!」
「聖女様だ! 百年ぶりに、いらしてくださった!」
 皆、尊敬と憧れの眼差しで榎本さんを見つめている。私は、ぽかんと口を開けた。
(聖女、そっちかーい!)
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