モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
第五章 舞踏会デビューしたはいいけれど!?

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 待ちに待った、舞踏会当日がやって来た。その日、ハイジら侍女たちは、総出で私の支度をしてくれた。自分は出席しないメルセデスは、目を光らせて陣頭指揮を執っている。
「うん、完璧! 可愛いわ。ハルカの魅力が、十分引き出せたわね」
 最後にメルセデスがそう言って頷くと、ハイジらはほっとしたように顔を見合わせ合った。
「ハルカはどう? 直して欲しい所があれば、今のうちに遠慮無く言ってね」
「いえ! 大満足です」
 私は、鏡の前で感動していた。今日着て行くのは、大人っぽい黒の、シルクのドレスだ。全体的に散りばめられたゴールドの刺繍が、爪とよくマッチしている。メイクも、爪に合わせたオレンジ系である。
 メルセデスに切られた髪は、あれから少し伸び、まとまりやすくなった。香油で徹底的にケアして、ドレスに合わせた黒翡翠のアクセサリーを飾ることで、ずいぶん様になっている。
「支度はできたか?」
 そこへ、グレゴールがやって来た。今日の彼は、黒を基調にした正装だ。丈の長い上着(ジュストコールと呼ぶのだと最近知った)は、長身の彼によく似合っていた。首回りの豪華なレースと、品良く施された金糸の刺繍は、彼の端正な顔立ちと相まって、高貴な印象を醸し出している。
「準備万端よ。あら、その装いにしたのね。いいじゃない。ハルカと対に見えるわ」
 メルセデスは、私とグレゴールをチラチラ見比べた。そうか、と私は気付いた。黒にゴールドだ。
(狙ったのかな? まさかね……)
「ところでグレゴール、私以外の女性をエスコートするなんて、久々じゃない。ちゃんとこなせるのかしら?」
 メルセデスは、弟をからかうように言った。グレゴールが、けろりと答える。
「俺のことは、ご心配なく。それより、アルノーが残念がっていましたよ。なぜ欠席なのか、と」
「舞踏会続きで、疲れたのよ。また今度ね」
 あっさりとそう答えると、メルセデスは私たちを送り出した。

 
 主催のクライン公爵邸は、ハイネマン邸に勝るとも劣らぬ立派な屋敷だった。会場に通されると、高い天井から吊された眩しいシャンデリアが、真っ先に目に入る。室内には、豪華な調度品がさりげなく置かれ、大理石の床は、顔が映りそうなくらいピカピカに磨き上げられていた。
 そして中では、大勢の招待客らが、グラスを片手に談笑していた。まるで、中世ヨーロッパが舞台の映画に出て来そうな光景だ。正直、テンションは上がりっぱなしである。私はそれを抑えて、心の中で再確認した。
(浮かれちゃダメよ。私は、貴婦人を目指して、ハイネマン家で修行中の娘なんだから)
 巻き込まれて異世界から聖女と共に来たことは、目撃者もいるため、隠しようがない。だが、側妃狙いということは悟られないように、とグレゴールからは釘を刺されている。あくまで、この国で頑張って生き抜くと決めて、ハイネマン家に身を寄せた健気な娘、という設定だ。
(ま、ある意味合ってるけどさ……)
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