モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 グレゴールと踊るのは、すっかり慣れた。いつもと違うのは、彼が正装ということだ。軽く見惚れていると、グレゴールはぼそりと囁いた。
「あの兄妹には、気を付けろ」
 ごく小さな声だった。ドキリとして頷いた私だったが、グレゴールはさらにとんでもないことを言い出した。
「ここだけの話、クリスティアン殿下の体調不良は、ベネディクト殿下の仕業ではないかと、俺は疑っている」
 ぎょっとした。音楽と喧噪のせいで、周囲には聞こえないだろうが、それでも私は緊張が走るのを感じた。
「医師も解明できない、殿下のあの不調……。ベネディクト殿下は、何らかの呪術を用いた可能性がある。目的は、王位だ。それはあの兄妹も、承知しているはず」
 非科学的な話なら、という先ほどの会話の意味が、ようやくわかった。呪術のことか。
(それなのに、クリスティアン殿下を我が子同然に思っているとか、加減が優れなかった時は心を痛めていたとか、白々しいわね……)
「だが、俺が聖女を召喚しようとしていることを嗅ぎつけて、ベネディクト殿下は作戦を変更した。カロリーネを、クリスティアン殿下の側妃に差し出そうというのだ。彼女が子を産めば、ベネディクト殿下は実質的に王室を操れる」
 私は、ハッと思い出した。
「もしかして、有力なライバルがいる、と以前仰っていたのは……」
「その通り。カロリーネのことだ」
 グレゴールは頷いた。
「あの通り美しい上、クリスティアン殿下とはいとこ同士だ。釣り合い的にも申し分ない。というわけで、側妃、最有力候補とみなされている」
 確かに、いとこ同士なら、気心も知れていることだろう。私は、急に不安になってきた。
「案ずるな」
 私の懸念を見透かしたように、グレゴールが言う。
「この前も言ったが、お前は十分に魅力がある。それに、独特の特技も持っている。一応情報として伝えたが、彼女のことは気にするな。お前は、お前らしくやればいい」
 励ますように、グレゴールが軽く私の腰を叩く。その時、曲が終わった。すると、当のカロリーネが、いそいそと近付いて来た。
「グレゴール、次は私と踊ってくださるわよね?」
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