モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

6

 クライン公爵と踊った後、私は何人かの青年貴族に誘われて踊った。礼儀正しい男性ばかりで、特段トラブルもなく、私は穏やかな時間を過ごすことができた。
 グレゴールはとチラと見れば、彼は大勢の人に囲まれていた。内訳は、圧倒的に男性が多い。皆、媚むき出しで、お追従を並べ立てている。王太子殿下の信頼も厚い宰相ともなれば、取り入っておきたいのだろう。
 グレゴールは、そんな彼らに如才なく対応している。ビジネスモードの彼を見るのは珍しいから、私はつい見入ってしまった。
 女性陣はといえば、チラチラとグレゴールを気にする素振りを見せつつも、なかなか近付く勇気が無いようだった。気持ちは、わからないでもない。グレゴールは滅多に笑わないし、どこか冷たい雰囲気をたたえているからだ。
(それを考えると、カロリーネ様って勇気があるわね……)
 身分が高い、ということが大きいのだろうけれど。でも、兄妹みたいなものとも言っていたな、と私は思い出した。グレゴールの方では、ひどく警戒している様子だったけれど。何だか、話が噛み合わない気もする。
(止め止め。今日は、場慣れのために来たんだから)
 せっかくだから、色々な男性と踊るべきだろう。とはいえ、さすがに少し疲れた。外の空気でも吸おうと、私はバルコニーへ出た。ほっと一息ついていると、背後で甲高い声が聞こえた。
「いたいた、ハルカさん!」
 振り向くと、そこにはカロリーネが立っていて、私は思わず身構えた。
「あら、そんなに緊張しないで。女同士で、お喋りしに来ただけよ。はいどうぞ、喉が渇いたのじゃない?」
 カロリーネは、私にシャンペンのグラスを差し出すと、座るよう勧めた。気を付けろと言われているが、こうなった以上は断りづらい。私は、仕方なく礼を述べると、彼女とテーブルセットに向かい合って腰かけた。
(社交の練習だと思おう。えーと、こういう場合は……)
 習ったマナーを思い出しながら、私は彼女のファッションを褒めてみた。
「カロリーネ様の今夜のお衣装、素敵ですね。お髪に、よくお似合いです」
 カロリーネが身に着けているのは、シルバーのドレスだ。お世辞でなく、彼女の赤毛にマッチしている。だがカロリーネは、こう答えた。
「ありがとう。あなたは、イマイチね。大人っぽく見せようとして、無理をしている感じ」
 ストレートな言葉に、私は一瞬つまった。カロリーネが、クスッと笑う。
「ああ、ごめんなさい! 私って、何でも直球で言っちゃう性質で。悪気は無いから、気にしないでね?」
(いや、気にするわよ……!)
 着慣れない黒なんて着たけれど、やはり変だっただろうか。思い悩む私に、カロリーネはさらに追い打ちをかけた。
「それから、その爪、なあに? 舞台役者みたいね」
 実際、舞台のメイクさんにしてもらったのだけれど。カロリーネの口調には、あからさまな侮蔑がにじんでいて、私はムッとした。
「こちらの世界では、一般的でないそうですけれど。似合うファッションが大切と聞きましたから。この色は、私に合っていると思います」
「ああ、メルセデス嬢の受け売りね?」
 再びクスクスと、カロリーネが笑う。
「でも演劇自体、庶民が楽しむレベルのものでしょう。その役者のファッションを真似るなんて、貴族ではあり得ないわね」
 何でも無いことのように言いながら、カロリーネはシャンペンを口に運んでいる。私は、苛立ちが募ってくるのを抑えられなかった。
(これ、直球っていうより、無神経なんじゃ……?)
「ま、前置きはこのくらいにして」
 カロリーネは、不意に私を見つめた。
「あなた、クリスティアンの側妃候補なのでしょ?」
(バレてる……!?)
< 36 / 104 >

この作品をシェア

pagetop