モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 内心ドキリとしたものの、私は平静を装った。
「何のことでしょう? そのような話は、まったく知りませんが」
「とぼけなくていいわよ」
 カロリーネは、身を乗り出した。
「グレゴールが、異世界から来た女の子を屋敷に住まわせて世話をしている、というのは知っていたわ。あの野心家の彼のことだもの、側妃に差し出す目的だろうってのはピンときた。だから、兄と二人、今日参加したのよ。見定めるためにね」
「だから、そういうことでは……」
「そうに決まっているでしょう」
 カロリーネが、私の言葉をびしりと遮る。ひどく冷たい眼差しだった。
「私たち兄妹ほど、グレゴールをよく知っている人間も、他にいないわ。兄はね、王立学院でグレゴールと同級生だったの。私は、一つ下」
 王立学院とは、王族や貴族の子弟が通う学校である。
「グレゴールはあらゆる学問に秀でていて、学年で首席だったの。兄は彼に負けっぱなしで、王族の端くれだというのに、面子は丸つぶれだったわ。……あ、ちなみに、歴史だけじゃないわよ。さっきのあれは、兄の見栄」
 チャラ男の上に馬鹿ときたか、と私はうんざりした。
「だから兄は、武官の道を選んだわ。父と同じ道を、なんてもっともらしい理由を付けていたけれど、それは言い訳よ。これ以上グレゴールに負けをさらすのが嫌だったからに決まっている。同じ文官の道を選べば、比較され続けてしまいますものね」
 カロリーネは、ふふっと笑った。
「脱線したわね。とにかく私は、グレゴールを昔から知っているけれど、出世しか頭に無い野心家よ。おまけに徹底的な合理主義で、利己的ときている。そんな彼が、善意で異世界から来たあなたを世話するとは、とても思えないわ。何らかの見返りがあっての行動に決まっている」
「見返り……?」
 否定しなければいけないのに、私はつい聞きとがめてしまった。
「クリスティアンの婚約者・ロスキラのマルガレータ王女は、お体が弱く、お子を宿せない可能性があるわ。もしもあなたが側妃になって子を産めば、グレゴールは後見人として、権力を振るうことができる。当然でしょう?」
「グレゴール様は、そんな方じゃありません!」
 私は、思わず語気を強めていた。戦を憂い、外交交渉に尽力しているグレゴール。あれほど国のことを思っている彼が、そんな利己的な発想をするはずが無いではないか。だがカロリーネは、平然としていた。
「どうかしらね? 先ほど言ったように、グレゴールは実力では兄に優っていたけれど、生まれ持った王族という身分には勝てなかったわ。それが、あなたとその子を通じて王室を支配できるようになれば、さぞ満足でしょうね」
 私は、『カロリーネが子を産めば、ベネディクト殿下は実質的に王室を操れる』というグレゴールの台詞を思い出していた。ベネディクトの振る舞いを案じているものと思っていたが、彼ら一家への対抗心が無いと言えるだろうか。エマヌエルとは、因縁もあるらしいのに……。
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