モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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「聖女殿、ようこそ」
 青年が、榎本さんに向かって微笑む。笑った顔は、ますます美形だ。誰かに似ているな、と私は思いを巡らせた。
「まずは、お名前を伺おうか」
 ちなみに、私のことは、ガン無視だ。イラッときた私だったが、次の瞬間、目は点になった。榎本さんが、すっくと立ち上がって、こう言ったからだ。
「その前に。あなたが誰で、今のこの状況がどういうことなのか、説明していただけますか? いきなり連れて来られて、聖女だの何だの言われても、納得できません」
(うわ~)
 私は、思わず横目で榎本さんを見た。会社での態度と、全く変わらない。榎本さんは、上司や先輩にもこういうハキハキした物言いをするのだ。男性社員たちからは、『引く』と言われている。
 このイケメンも、さぞやドン引きしただろう、と私は彼の様子をうかがった。ところが青年は、意外にもパッと顔を輝かせた。
「おお、聖女殿は、しっかりした性格であられるのだな……。確かに、その通りだ。自己紹介もせず、失礼した。私は、イルディリア王国第一王子のクリスティアンという」
 何と、と私は目を見張った。王子様みたいだと思っていたら、まさかの本物だったとは。そういえば、殿下とか呼ばれていたっけ。榎本さんは、きちんと姿勢を正して挨拶した。
「私は、日本という国から来たマキ・エノモトと申します」
「では、マキ殿とお呼びしよう」
 サクサクと進んで行く会話に、私は一人取り残されていた。
 すると、先ほど紋章の刻印について王子に説明していたグレゴールとかいう男が、後を引き取った。年齢は、三十代前半か。背がすらりと高く、体格の良い男だ。ダークブラウンの髪に、漆黒の瞳が落ち着いた印象を与える。彼は、低い声で淡々と語った。
「マキ殿。あなたを召喚したのは、他でもない。このクリスティアン殿下は、イルディリア王国の王太子殿下にして、現国王陛下の血を引く唯一の男児であらせられる。ところが最近、原因不明の病にかかってしまわれたのだ。医師が手を尽くしても、治療法が見つからぬ。そこで歴史をひもといたところ、百年前に異世界から聖女を召喚し、王族の病を治した事例があった。その例に倣おうと、同じ儀式を試みたのだ」
「なるほど、ここはやはり異世界なのですね。そして私は、王子殿下のご病気を治せばよいと、そういうことなのですね」
 榎本さんは動じることもなく、納得したように頷いた。そしてやおら、私の方を見る。
「こちらは私の同僚なのですが、彼女はどうなるのでしょうか? 先ほど、手違いでと聞こえましたが。間違って、一緒に呼び寄せられてしまったわけですよね?」
 ようやく一同の視線が、私に集まる。出番だわ、と私は意気込んだ。小首をかしげる得意のポーズで、男たちの顔を見回す。
「間違いで、呼ばれちゃったんですか? 困ります~。知らない場所で、私、どうすればいいのかしら?」 
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