モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 一方カロリーネは、にこやかに喋り続けている。
「気にしないで! こんなの、大したドレスじゃないし。実は、余っていた生地で安く仕立ててもらったものなの」
 娘たちの顔は、微かにほころんだ。『王弟殿下のご令嬢』が気さくさをアピールしたことで、親近感を抱いたのは確実だった。私は、確信した。
(こいつ、『サバサバ女子を演じてる女』だ!)
 とたんに私の脳裏には、ミユキちゃんの思い出がフラッシュバックした。誰もが彼女を信じ、孤立していた中学時代。一気に、気分が悪くなってきた。無実を証明したいのに、喋るどころか、体が固まって動かない。
「失礼。私の連れが、どうかしましたか」
 そこへ、耳に馴染んだ低い声が響いた。カロリーネと娘たちが、一斉に声の方を向く。やって来たのは、予想通りグレゴールだった。
「ハイネマン公爵。このご令嬢は、カロリーネ様のドレスを汚したのですわ」
 一人の娘が、即座に言い放つ。私は慌てて否定しようとしたが、カロリーネが声を発する方が早かった。
「あらグレゴール、違うのよ。私が、うっかりしただけ」
 明るく微笑むカロリーネは、私にズケズケ言いまくっていたさっきまでの彼女と同一人物とは、とても思えなかった。
「ハイネマン公爵。カロリーネ様は、彼女を庇ってらっしゃるのですわ」
 別の娘が、口を尖らせる。私は震える声で、ようやく呟いた。
「私、何もしていません。シャンペンのグラスには、触れてもいませんわ」
 白々しいわ、と娘たちが囁く。グレゴールは、そんな彼女たちをじろりと見た。
「ハルカがやったと仰るが、その現場はどなたか目撃なさったのですか」
「それは……」
 娘たちは、ぐっと黙った。グレゴールは、つかつかとバルコニー内に入って来ると、二つのグラスを取り上げた。私の前に置かれていた、ほぼ空のグラスをじっと見つめると、彼はおもむろにその縁を指で拭った。カロリーネに向かって、その指を突き出す。
「あなたがつけておられるルージュの色に、そっくりですが」
 カロリーネが、一瞬固まる。
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