モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 私は、あっけにとられてグレゴールを見つめた。
(信じてくれた? そして、庇ってくれている……?)
 じわりと、胸が熱くなる。一方娘たちは、とたんにヒソヒソ囁き始めた。
「確かに、ハルカさんのルージュの色ではないわね」
「じゃあなぜあのグラスが、ハルカさんの前に?」
「まさか、取り替え……」
 だが彼女たちは、次の瞬間静まった。グレゴールが、突如カロリーネの前に跪いたからだ。彼は、カロリーネを見上げて語りかけた。
「カロリーネ様。()()()()()()()()()()()()()()、ご不快な気分にさせたことは事実。大変、申し訳ございませんでした」
「いえ、あなたが謝ることじゃ……」
 さすがのカロリーネも、顔を引き攣らせている。グレゴールは、淡々と告げた。
「私はこのハルカの世話役として、監督指導はしておりますが、何分、価値観の全く違う異世界からきた娘。()()()カロリーネ様のことですから、広いお心で見守ってくださることを期待していましたが、私の考えが甘かったようですな。かくなる上は、ご気分を害した責任を取って、辞するといたしましょう」
 グレゴールは、言うだけ言うと立ち上がり、私の手を取った。カロリーネが、顔色を変える。
「もう帰ってしまうの?」
 グレゴールは返事をせずに、私の手を引いて室内へと入った。だがそこには、エマヌエルの姿があった。
「待てよ、グレゴール。僕はまだ、ハルカ嬢と踊っていない」
 エマヌエルは、通せんぼをするように私たちの前に立ち塞がった。視線は、私の体に無遠慮に注がれていて、私は生理的な嫌悪感を覚えた。無意識に、グレゴールの手をきつく握りしめてしまう。
「それは残念でしたな。ですが彼女の存在が、あなたの妹君のご気分を損ねるようですので。私も、エスコート役としての責任がございます」
 感情のこもらない声で言い捨てると、グレゴールはエマヌエルの脇を、スッとすり抜けた。エマヌエルは、それ以上引き留めることはしなかった。

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