モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

12

 クライン邸を出て馬車に乗り込むと、私は真っ先にグレゴールに礼を述べた。
「ありがとうございました、助けてくださって……。でもよく、すぐにわかりましたね? グラスがすり替わったこと」
 あの場に現れるなり、起きたことを見抜いたグレゴールに、私は感心していた。すると彼は、こともなげに答えた。
「お前は、相手が口を付けてもいないのに一人飲食するような、厚かましい人間ではない。目上の者が相手なら、なおさらだ」
 そんな細かい所を見抜いていたのか、と私は驚いた。多忙なグレゴールとは、毎度食事を共にしているわけでもないのに。
「第一」
 グレゴールが、私をじっと見つめる。
「お前は、人に嫌がらせをするような人間ではないだろう。仮に、過失により汚したとしても、それならば潔く謝罪するはず。……であれば、答は一つだ」
「グレゴール様……」
胸がいっぱいになる。だが、嬉しさと同時に、私は申し訳なさを覚えた。
「すみませんでした。グレゴール様を、跪かせてしまって。あなたは、何も悪くないというのに……」
 だが、私の思いとは裏腹に、グレゴールは案外けろっとしていた。
「相手は、王族だからな。ある程度、面子は立ててやらんといかんだろう。そういう階級社会なんだから、仕方ない」
 言いながらグレゴールは、思い出したようにハンケチで指を拭った。カロリーネのルージュが付着したそれを、彼は不快そうに馬車の空席へ放り投げた。
「でも、私が自分で、ちゃんと釈明すべきでした。昔のことが急に蘇って、固まってしまったんです……」
 口にすると、再び気分が悪くなってきた。私の思い出話を、覚えていたのだろう。グレゴールは、静かに頷いた。
「人を苦しめるような、根性の腐った人間のことなど、忘れてしまえ。お前の味方は、たくさんいる。姉上も、クライン公爵も。……何より、俺が付いている」
 グレゴールは、スッと腕を伸ばすと、私の肩を抱いた。上着越しに、温かい体温が伝わってきて、何となくどぎまぎしてしまう。それを誤魔化そうと、私は彼に話しかけた。
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