モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
第六章 実はもふもふは苦手なんです

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 舞踏会以来、私は以前にも増して勉学に励むようになった。家庭教師の授業以外にも、屋敷にある本を読み漁って、様々な知識を身に付けた。グレゴールを、信じたい。だが万一、側妃になれずに娼館へ行かされたりしたら。それを考えると、不安でたまらなかったのだ。
「根詰めすぎじゃない? 少しは息抜きなさいな」
 メルセデスは心配して、買い物に誘ってくれたが、私は理由を付けて断り続けた。初対面の際、彼女が『計画』と口走ったのを思い出したからだ。今から思えば、グレゴールが王室を操る話と取れなくもない。それを考えると、私は彼女まで不信の目で見ざるを得なくなってしまったのだ。
 そんなある日、朝食を終えて部屋へ引っ込もうとすると、グレゴールが呼び止めてきた。
「今日は、家庭教師も来ないのだろう? 今から、支度できるか。連れて行きたいところがある」
 急な話に戸惑ったものの、グレゴールの口調には有無を言わさぬものがあった。よくわからないまま、私は身支度を調えると、彼と一緒に馬車へ乗り込んだ。
 連れて行かれたのは、見覚えある宮殿だった。最初に召喚された場所である、離宮だ。目を見張る私を見て、グレゴールは微笑んだ。
「思い出したようだな」
「ここ、確か、マキさんがいるんですよね?」
 クリスティアンがここに通って治療を受けるため、榎本さんはこの離宮に住み込んでいる、と以前聞いた。
「さよう。近頃のお前は、元気が無いようだから。慣れない異世界で、二ヶ月近くも頑張ったのだ、くたびれても当然だろう。以前の世界の友人に会えば、少しはリラックスできるのではと思ってな」
「それで、わざわざ? ありがとうございます」
「今日は、俺も久々の休暇だ。気にするな」
 グレゴールは、あっさり答えた。
「これくらい、当然だ。せっかく舞踏会デビューも無事に果たし、本来ならあちこち顔を出させてやりたいところ、それもできていないのだから。芝居にも、連れて行くと言いながら、まだ実現できていないし」
 舞踏会以降、グレゴールはひどく仕事が多忙な様子なのだ。帰宅が深夜に及ぶことも多い。それは仕方ないだろうと私は思った。
「いえ。お忙しいのですから、気になさらないでください」
「だが、約束したのに……。今度休みを取れたら、必ず連れて行くからな」
 グレゴールは、やけに力を込めて言った。
「せめて今日は、マキ殿と思う存分話してこい。……ああ、ただし側妃を目指していることは、伏せておくようにな?」
 はい、と私は頷いた。久々に榎本さんに会うと思うと、気持ちも明るくなっていく。
(元気かな……)
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