モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

2

 離宮を警備している衛兵たちは、グレゴールを見ると最敬礼した。特に用件も告げないのに、スムースに中へ通してくれる。まるで顔パスだ。舞踏会の時も思ったけれど、改めてグレゴールの地位を実感してしまう。
 宮殿内に入ると、グレゴールは勝手知ったる様子で、スタスタと歩いて行く。私は、彼に従った。すると廊下の向こうから、数名の家臣らしき人々に付き従われた、一人の青年がやって来た。
 おや、と私は思った。その顔には、覚えがあったのだ。美しいプラチナブロンドの髪をなびかせ、澄んだコバルトブルーの瞳には、気品があふれている。
(クリスティアン王太子殿下……!)
 クリスティアンは、グレゴールを認めると、顔をほころばせた。
「おお、グレゴール。ちょうど今、聖女殿の治療を受け終えたところだ」
「さようでございますか。お加減は、いかがでございますか」
「順調だ」
 短く答えると、クリスティアンは私に目を留めた。
「おや、その娘は、確か……」
 私を覚えていたらしい。私は、ドレスの裾をつまんで丁重に挨拶した。グレゴールが説明する。
「はい、殿下。召喚に巻き込まれて、聖女殿と共にこちらへ来た、ハルカでございます。あいにく元の世界へは戻せないため、私の屋敷で面倒を見ておりまして。本日は、マキ殿に会わせようと、連れて参りました」
 グレゴールが促すので、私は緊張しながらクリスティアンの前に進み出た。
「再びお目にかかれて光栄でございます、殿下。イルディリア王国は気候も温暖ですし、国民の皆様も、穏やかで優しい方々ばかり。おかげさまで、大変楽しく過ごさせていただいております」
「それは何よりだ。巻き込み召喚など、悪いことをしてしまったが、その言葉を聞いて安心したぞ」
 クリスティアンが頷く。するとグレゴールが、補足するように言った。
「たいそう真面目で、優秀な娘でございますよ。こちらの風習にも、あっという間に馴染みました。先日は舞踏会で、堂々たるダンスを披露したのです」
 ほう、とクリスティアンが目を見張る。彼は、私の顔をまじまじと見た。
「そういえば、来た時とまるで雰囲気が変わったな。髪型に、服装、言葉遣いも……。確かに、馴染んでいるようだ。この国の女と称しても、通じるな」
「ありがとうございます。グレゴール様、お姉様のご指導の、たまものでございます」
 そう答えるとクリスティアンは、驚いたことに、私に微笑みかけた。
(うわっ。来た時と、えらい違い……)
 あの時は、私も悪かったのだけれど、床に叩きつけられたというのに。唖然としつつも、私は恭しく礼をした。クリスティアンは、軽く頷くと、家臣らを引き連れて去って行った。
 一行の姿が見えなくなると、グレゴールはにやりとした。
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