モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 とはいえ、相手は王族だ。あまり失礼な態度も取れない。
「ええと、お誘いは嬉しいのですが、やはり聖獣の無事を確認しませんと。聖女の部屋へ、返さないといけません」
 精一杯丁重に返答したのだが、エマヌエルは眉を吊り上げた。
「僕を信用しないのか?」
「いえ、そのような……」
 思いっきり信用できませんけど、と心の中で付け加える。するとエマヌエルは、意外なことを言い出した。
「僕なら、聖獣を扱えるぞ? 聖獣は、王族または聖女の言うことしか聞かないんだ」
「――そうなのですか!?」
 そういえば榎本さんも、聖獣は王家を守る存在だと言っていた。ここは、彼に任せるより他はないのだろうか。
(馬鹿だろうがチャラ男だろうが、王族の端くれなんだし……)
 エマヌエルが、ダメ押しするように言う。
「クリスティアンは体調不良で、聖女はその治療中なんだろ? つまり今この離宮で、聖獣を扱える人間は、僕しかいない」
 ちょっと待てよ、と私は思った。その事実を、エマヌエルがなぜ知っているのだ。私たちが離宮へ来たことは、ストーキングで知ったにせよ……。
「ああ、といっても、緊張しなくていいからね」
 私の強張った表情を見て、エマヌエルは変な風に誤解したようだった。
「別に僕は、王族の地位を鼻にかけるつもりは無い。だから、そうかしこまらないで。一人の男として、見てくれればいいからさ」
(かしこまってなど、おりません……!)
 敬意の欠片も抱いてはいないというのに、勘違いしたらしいエマヌエルは、顔を輝かせた。あろうことか、腰に回していた手を、さらに下へと滑らせていくではないか。逃れようとしても、腕はがっちりつかまれている。
(止めてぇ……!)
 そこへ、鋭い声が響き渡った。
「ハルカから、手を放していただきましょうか、エマヌエル様?」
 ハッと振り返れば、グレゴールがこちらをにらみつけていた。やれやれ、といった様子で、エマヌエルが肩をすくめる。
「番犬が、もう戻って来たか」
 そう言いつつも、彼は私の腕をつかんだままだ。グレゴールが、気色ばむ。
「程度の低さをさらすのは、学生時代までですぞ」
 グレゴールが、つかつかと歩み寄って来る。エマヌエルが、カッと顔を紅潮させた。
「何を……!」
「侍女を買収して、嘘の情報でマキ殿を誘き出しましたな。ハルカが一人になった隙に、部屋に忍び込もうという算段ですか」
(何ですって……!?)
 クリスティアンの容態悪化は、嘘だったというのか。そこへ、榎本さんが蒼白な顔で走って来た。
「北山さん! 心配したよ。それで、セシリアは……」
 榎本さんの言葉は、途中で途切れた。グレゴールが、エマヌエルを怒鳴りつけたからだ。
「とにかく、早くハルカから離れろ!」
 信じられないことに、彼はエマヌエルにつかみかかった。
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