モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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「すごーい。てか、材料そろったんだ?」

「牛肉とタマネギは手に入るけど、醤油が無いのが致命的だったなあ。でも、なるべく似た味付けにしてみたよ」

 上流家庭だけあって、ハイネマン家の厨房は、かなりの種類の調味料がそろっていた。まるで化学実験ごとく、様々な調味料を組み合わせを変えてミックスするうち、どうにか醤油に近い味を再現できたのである。

「ありがとう。いただきます!」

 嬉しそうにサンドイッチにかぶりついた榎本さんは、パッと笑みを浮かべた。

「美味しい!! 日本の牛丼屋の味に、かなり近いじゃん?」

 喜んでくれた様子に、私はほっとした。ウォルターが、何事かと榎本さんの膝に上ろうとする。

「ダメダメ。これはタマネギが入ってるから、ウォルター向きじゃないんだよ」

 軽くあしらうと、榎本さんは私を見てにやっとした。

「料理好きは、本当だったんだ?」

「う~」

 『お料理得意女子』をアピールしていた過去を指摘され、私は赤くなった。

「スミマセン、動物好きの方は嘘で……」

「いいって。それより、北山さんも食べよ。ピクニックみたいだね」

「うん!」

 促され、私もサンドイッチを手に取った。苦手だった同僚と、こんな風にランチしているなんて、何だかびっくりだ。しかも、牛丼サンドを食べながら。牛丼は好きだったけれど、店に一人で入る勇気は無かった。

(これなら日本にいる間に、一度くらい入っておくんだったな……)

 そんなことを考えていたその時、不意に背後で声がした。

「何やら、良い匂いだな」

 まさか、と振り返れば、立っていたのはクリスティアンだった。今日は、ラフなチュニック姿だ。相変わらず、多数の家臣を背後に従えている。

 榎本さんが立ち上がり、恭しく礼をする。私も、慌てて彼女に続いた。

「殿下! 先日は、大変ご迷惑をおかけしまして……」

 必死で詫びの言葉を述べたが、クリスティアンはけろりとしていた。

「済んだことは、もうよい。それより、その料理は何だ? 初めて見るが」

 そりゃそうだろう。私は、緊張しながら説明した。

「こちらのサンドイッチの中身は、『牛丼』といいまして、私たちがいた世界で人気だった料理でございます。牛肉とタマネギを煮込んだものです」

「ほう、ギュウドン?」

 クリスティアンは、興味深そうに目を輝かせた。

「どれ、私も一つ、食してみたいのだが」

「ええ!? 殿下が、でございますか」

 予想外の展開に、私は戸惑った。

「ですがこちらは、私たちのいた世界では、どちらかというと平民の食べるものでして。殿下のお口に合いますかどうか……」

 榎本さんをチラと見れば、さすがの彼女も当惑している。だがクリスティアンは、強硬に言い張った。

「これほど良い匂いのする料理が、不味いわけは無かろう」

「はあ……、では」

 匂いにつられるのは、この世界でも共通だったらしい。私はおそるおそる、サンドイッチの一つをクリスティアンに差し出した。

「ありがとう。そなたらも、座れ」

私と榎本さんは、元通りに腰を下ろした。クリスティアンは、私たちの向かいのベンチにどっかりと腰かけると、早速サンドイッチを口にした。家臣らは、遠巻きに見守っている。
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