モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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「ほう! これは」

 クリスティアンは、目を見張った。

「珍しい味だ……。だが、美味い。実に気に入った」

 私は、ぽかんと口を開けた。まさか異世界でも、牛丼の味が通用するとは。すると榎本さんが、横から説明してくれた。

「ハルカさんのお手製でございますよ、殿下」

「何と。そなたは、料理ができるのか」

 クリスティアンは、ますます驚いたようだった。

「そんな特技もあるとは、初耳だ。……いや、グレゴールからはあれこれ聞いておったのだが。物覚えがいいだとか、器用だとか。経済の心得まであるそうだな」

「以前の世界で、少々学んでいただけにございます」

 謙遜しつつも、私は意外に思った。側妃候補として売り込む腹なら、どうして料理のことを伏せていたのだろうと思ったのだ。かなりのPRポイントだと思うのだけれど。

(まあ、価値観が結構違うからな。あまり得点にならないと思ったのかもね……)

 クリスティアンは、あっという間にサンドイッチを完食すると、籠の中をチラと見た。

「もう一つ、食べたいのだが」

「もちろんでございます!」

 王太子殿下に言われて、断れるはずがない。私は、籠を彼に差し出した。

「以前の世界では、これをパンではなく米に載せるのが普通だったんですけどね。意外と、パンでも合うのがわかりました」

 物怖じしない性格の榎本さんは、王子相手でも気楽に喋っている。するとクリスティアンは、ふと考え込んだ。

「なるほど、米か。確かに合いそうだが、入手は難しいな」

 家庭教師から習った知識によると、米はこのイルディリア王国でも、獲れないわけではないらしい。だがかなり希少なため、王族ですら滅多に食べられないのだとか。

「いや、待てよ。ロスキラとの関係が改善すれば、輸入ができるな」

ドキリとした。クリスティアンの婚約者・マルガレータは、ロスキラの王女だ。確かに米の栽培が盛んだと、習ったことがある。

「試みるとするか。この味は、是非広めたい」

 クリスティアンは、えらく乗り気だ。そしてドサクサに紛れて、三つ目を口にしている。風格がありすぎて錯覚するけれど、まだ十七歳なんだよな、と私は改めて思い出した。日本で言えば高校生、育ち盛りのど真ん中だ。食欲旺盛でも、当然だろう。

(まあ、仕方ないか。榎本さんには、また作ってあげるとしよう……)

 幸せそうにサンドイッチを頬張っているクリスティアンには、あどけない可愛らしさがあった。こうして見ると、増田さんにはさほど似ていない。

(というか、いつの間にか増田さんのこと、すっかり忘れてたな……)

 いくらめまぐるしく環境が変化したとはいえ、イルディリア王国へ来てから、彼のことなど思い出しもしなかった自分に気付く。私は、そんな自分に驚いた。
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