モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
5
「でも食事中に、クリスティアン殿下が偶然いらっしゃって。それで一緒に、食べる流れに……。あ、そういえばグレゴール様、私の特技が料理だと、話されていなかったんですね。殿下、驚かれていました」
「ああ。うっかりお伝えし忘れていたな」
グレゴールが、淡々と答える。私は、内心首をひねった。
(グレゴール様でも、うっかり忘れるとか、あるんだ……?)
グレゴールは、そんな私に構わずに、さっさと歩き出している。門を出たところで、グレゴールはふと私の方を振り返った。
「ところで、ずいぶん盛り上がっていたようだが?」
「ええ、調味料の話です」
私は、こっくりと頷いた。
「あの料理、本来用いる調味料は、『ショウユ』といって、大豆を原料としているんです……。あ、クリスティアン殿下に、お褒めいただきましたよ。私が、大豆がロスキラの名産だと知っていたので」
クリスティアンにアピールできたことを自慢したくて、私は胸を張った。だがグレゴールは、意外にもクールな反応だった。
「そうか」
一言そう答えると、グレゴールはしばらくの間、思案するような素振りを見せた。ややあって、彼は唐突な台詞を吐いた。
「調味料を厨房に増やすよう、ヘルマンに命じよう」
「……はい?」
私は、きょとんとした。補足するように、グレゴールが続ける。
「その『ショウユ』とやらに近い物を捜させようというのだ。そして……」
グレゴールは、やや言いよどんだ。
「俺にも、作ってくれるか。その『ギュウドン』とやらを」
「もちろんです!」
私は、勢い良く頷いていた。魚好きのグレゴールが興味を示すとは意外だったが、日本の食べ物を受け入れてくれるのは嬉しい。思わず微笑めば、グレゴールはふと目を逸らした。短く告げる。
「乗れ」
「はい……」
二人して馬車に乗り込むと、グレゴールは御者に、行き先を告げた。それを聞いて、私はおやと思った。屋敷ではなかったのだ。しかも、その名称には覚えがある。
「劇場、ですか? 爪、手入れした方がいいですかね」
まだ剥げてはいないが、と私は自分の爪を見つめた。いや、とグレゴールがかぶりを振る。
「爪の件ではない。芝居だ。連れて行くと、言っていたろう?」
確かにそう聞いてはいたが、今日行くというのは初耳だ。私は、やや戸惑った。
「はあ、ありがとうございます……。でもグレゴール様、お仕事はいいんですか?」
「別に、どうとでもなる」
本当にいいのかな、と私は不安に思った。煮え切らない私に焦れたのか、グレゴールが語気を強める。
「今日の演目は、女性に人気なのだそうだ。だから、見せてやりたい。……それとも」
グレゴールは、私にチラリと視線を走らせた。窺うような眼差しだった。
「俺ともう少し時間を過ごすのは、嫌か?」
「まさか! そんなはず、ありません……」
私は、ふるふるとかぶりを振った。この前は楽屋へ入っただけだったが、いよいよ鑑賞ができるのか。何だか、ワクワクしてくる。とはいえ、その原因は、単なる芝居への期待だけではない気がした。
私は、隣をそっと窺った。そして、ハッとした。グレゴールは、先ほどまでとは打って変わって、柔らかい表情を浮かべていたのだ。その横顔には、軽い笑みすら浮かんでいるように見えた。
「ああ。うっかりお伝えし忘れていたな」
グレゴールが、淡々と答える。私は、内心首をひねった。
(グレゴール様でも、うっかり忘れるとか、あるんだ……?)
グレゴールは、そんな私に構わずに、さっさと歩き出している。門を出たところで、グレゴールはふと私の方を振り返った。
「ところで、ずいぶん盛り上がっていたようだが?」
「ええ、調味料の話です」
私は、こっくりと頷いた。
「あの料理、本来用いる調味料は、『ショウユ』といって、大豆を原料としているんです……。あ、クリスティアン殿下に、お褒めいただきましたよ。私が、大豆がロスキラの名産だと知っていたので」
クリスティアンにアピールできたことを自慢したくて、私は胸を張った。だがグレゴールは、意外にもクールな反応だった。
「そうか」
一言そう答えると、グレゴールはしばらくの間、思案するような素振りを見せた。ややあって、彼は唐突な台詞を吐いた。
「調味料を厨房に増やすよう、ヘルマンに命じよう」
「……はい?」
私は、きょとんとした。補足するように、グレゴールが続ける。
「その『ショウユ』とやらに近い物を捜させようというのだ。そして……」
グレゴールは、やや言いよどんだ。
「俺にも、作ってくれるか。その『ギュウドン』とやらを」
「もちろんです!」
私は、勢い良く頷いていた。魚好きのグレゴールが興味を示すとは意外だったが、日本の食べ物を受け入れてくれるのは嬉しい。思わず微笑めば、グレゴールはふと目を逸らした。短く告げる。
「乗れ」
「はい……」
二人して馬車に乗り込むと、グレゴールは御者に、行き先を告げた。それを聞いて、私はおやと思った。屋敷ではなかったのだ。しかも、その名称には覚えがある。
「劇場、ですか? 爪、手入れした方がいいですかね」
まだ剥げてはいないが、と私は自分の爪を見つめた。いや、とグレゴールがかぶりを振る。
「爪の件ではない。芝居だ。連れて行くと、言っていたろう?」
確かにそう聞いてはいたが、今日行くというのは初耳だ。私は、やや戸惑った。
「はあ、ありがとうございます……。でもグレゴール様、お仕事はいいんですか?」
「別に、どうとでもなる」
本当にいいのかな、と私は不安に思った。煮え切らない私に焦れたのか、グレゴールが語気を強める。
「今日の演目は、女性に人気なのだそうだ。だから、見せてやりたい。……それとも」
グレゴールは、私にチラリと視線を走らせた。窺うような眼差しだった。
「俺ともう少し時間を過ごすのは、嫌か?」
「まさか! そんなはず、ありません……」
私は、ふるふるとかぶりを振った。この前は楽屋へ入っただけだったが、いよいよ鑑賞ができるのか。何だか、ワクワクしてくる。とはいえ、その原因は、単なる芝居への期待だけではない気がした。
私は、隣をそっと窺った。そして、ハッとした。グレゴールは、先ほどまでとは打って変わって、柔らかい表情を浮かべていたのだ。その横顔には、軽い笑みすら浮かんでいるように見えた。