モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 脱力していると、不意に低い笑い声が響き渡った。グレゴールだ。
「ヘルマン。ハルカのいた異世界は、こちらとはかなり風習が異なるようなのだ。おかしな振る舞いも多いとは思うが、大目に見てやってくれ」
 グレゴールは、労るようにヘルマンに声をかけている。私はムッとした。
(何よ。おかしいのは、あんたらの方でしょ……)
 とは言っても、ここのやり方に合わせないことには、始まらない。失敗すれば、側妃どころか娼館行きだ。『小首かしげテク』と上目遣いは封印、と私は心にメモした。
「ではハルカ、あとはヘルマンに案内してもらってくれ」
 言いたいことだけ言うと、グレゴールはさっさと姿を消した。仕方なく私は、ヘルマンに従った。
 ヘルマンは、屋敷内を案内しながら、イルディリア王国について説明してくれた。
 現国王は、アウグスト五世というが、なかなか男児に恵まれなかったのだとか。この国は男子にしか王位継承権が無いため焦っていたところ、ようやくクリスティアンが産まれたのだという。
 クリスティアンの婚約相手・マルガレータは、ロスキラという隣国の王女だそうだ。イルディリアとロスキラは、長らく敵対関係にあったが、この婚姻を機に、同盟を結ぶのだという。
(そういう事情じゃ、正妃狙いは難しそうね。でも、側妃ならきっとなれるわ)
 私は、内心意気込んだ。価値観の違いを知らなかったせいで、初対面では悪印象を与えてしまったが、私の魅力を持ってすれば王子だってゲットできるだろう。元の世界に帰れないなら、ここで頑張るしかないのだ。
 それに、クリスティアンは、増田さんに似ている。正直、タイプだった。
(増田さんにはふられたけど、今度は挽回するわ……!)
大きく頷いていると、ヘルマンは、今度はハイネマン家について説明し始めた。王室とは遠戚関係にある、由緒ある公爵家で、当主は代々、王太子の教育係を務めるのだという。
(公爵って、公、侯、伯、子、男でトップじゃなかったっけ?)
 私は、おぼろげな記憶をたどった。結構すごい家に来ちゃったのではないか。おまけにヘルマンは、こう続けた。
「グレゴール様は、まだ二十八歳でいらっしゃいますが、ご両親が早くに他界されたため、ハイネマン家のご当主を務められています。国王陛下、王太子殿下からのご信頼も、たいそう厚いのですよ」
「二十八歳!?」
 意外と若いんだな、と私はびっくりした。その年齢で宰相とは、かなりやり手なのだろう。
(偉そうな奴だけどさ……)
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