囚われのシンデレラ【完結】
4 悲しい再会


 少しずつ、空気が冷たくなって来た。

 秋から冬へと移り変わるちょうど狭間、少し胸に寂しさが過るこの季節が私は苦手だった。歩道に散らばる落ち葉を踏みしめながら、首元のコートの襟をぎゅっと掴む。

冷え込んで来たし、早く家に帰ろう――。

夕方もまだ早い時間だというのに、ここ数日で一気に空が暗くなるのが早くなった。手にした買い物袋を握り直し、歩く速度を速める。

「――ねえ、あずさじゃない?」

人通りの多い街の中、突然声を掛けられて足を止めた。

「やっぱりあずさだ! 久しぶり! 元気だった?」
「……奏音?」

振り向いた先にいたのは、奏音――通っていた音大時代の友人だった。

「……本当に久しぶり。奏音こそ元気にしてた?」

自分の中に生まれた仄暗い感情を、自覚する前に吹き飛ばす。

「やだ、もう何年ぶりだろ。6年? もっと? こんなところで会えるなんて嬉しい。あずさ、この後予定あるの?」
「仕事休みだったから、久しぶりに買い物に出て来て。これから帰ろうとしてたところ」
「じゃあ、もしよかったら少しお茶でもしようよ。話ししたい」

綺麗になった奏音を前に圧倒されるけれど、私は笑顔で頷いた。


「――奏音は、今は東京(こっち)にいるの?」

近くのカフェに入り、向い合って座る。正面に座る友人は、ゆるやかな長い髪を無造作にまとめ、学生の頃とは違う大人の女性に変わっていた。

それも当然だ。あれから7年が経っている――。

「そうなの。去年パリから帰って来て、今はあちこち飛び回ってる。仕事なんてもらえるだけでありがたいから、回って来たものは全部引き受けてるよ」

パリに留学するという知らせをもらったのが、奏音と連絡を取り合った最後だと思う。留学を終えて、演奏活動をしているということなのだろう。

「……そっか。でも、演奏の仕事が出来てるなんて凄いよ」

温かいカフェオレのカップを、無意識のうちに手のひらで包む。その熱が冷たくなっていた指を温めてくれた。

「まだまだ全然。オケの交代要員とかリハーサル要員とか。給料なんて酷いありさまだしね」

そう言いながら、その表情は活き活きとしていた。

その気持ちはよく分かる。

どんなものであっても、音楽で働ける。それが何よりの誇りであり喜びだろう。

「あずさは、もう、あれからバイオリン弾いてないの……?」

その明るかった表情を抑え、私をうかがうように見て来た。

「ああ……うん。気が向いた時に触る程度かな」
「そう……」

気まずそうに、奏音がカップを口にした。

7年前――。
私は、音大をやめたのだ。

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