ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




いつものように学校へ行って、残りの高校生活を楓花や北條くんと過ごして。

放課後は千隼くんに会いに行って、そのとき彼は優しい顔で迎えてくれていた。


就職してからまた一人暮らしをするようになったお姉ちゃんが、たまたま実家に戻ってきたから、家族4人で夕飯を食べて。

「今日はこのまま泊まっていこうかな~」なんて、姉が言っていたときだった。


彼の様態が一変したと、主治医から電話がかかってきたのは21時過ぎ。



「李衣、浅倉くんによろしくね。また一緒にバウムクーヘン食べようって…伝えておいて」


「うん。わかった」



くしゃっと、歪む表情を誤魔化すようにお姉ちゃんは私の頭を撫でた。


年が明けて、雪が降って、寒い冬の季節が巡って。

あのね千隼くん。

北條くんが作った雪だるま、今年は2つだったよ。



「千隼くん…!」


「…青石さん、」



ICU───集中治療室へ向かうと、ベッド脇の椅子にはお母さんの姿があった。

鼻を真っ赤にさせて近づく私を目にしては、小さく笑ってくれる。



「千隼、青石さんが来てくれたよ。お母さん、ちょっとだけ先生と話してくるね」



一定音を出す心電図モニター。

こんな機械音だけで彼の生死を確認するなんて、なんとも皮肉な話だと思う。

でも、これしかない。
これに頼るしかない。



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