ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




大人しくて口数も少ない男の子。

私だけには懐いてくれたみたいで、いつも何かするときは決まって隣を陣取っている子。



「りいせんせいっ、ちあきくんなら、なかにわにいるよ!」


「中庭…?ありがとうナミちゃん!」



短大を卒業して研修期間を経てから、自分の組を持って。


保育士という職業に就いて早6年。


睡眠を削ってまでプリント作成やスケジュール管理に追われた最初の頃。

正直、辞めたいと思ったことは何度もあった。


けれど私だけの夢ではないことを思い出しては気合いを入れ直して、なんとか地獄のような忙しさの乗り切り方を分かってきた6年目。



「もー、こんなところにいた。千明くん、お母さんがお迎えに来てるよ?」


「せんせい、カブトムシ」


「わ、ほんとだ。ひとりで捕まえたんだ?すごいね!」



小さな手が、鋭い角を伸ばすカブトムシをしっかり掴んでいる。



「さっきチョチョウもいた」


「わあ、千明くんは虫博士だね」



虫かごに入れてお家へ持って帰るのかと思いきや、そっと日陰に戻した男の子。

千明くんいわく、「好きに動けないのは苦しいから」と。



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