ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「だって昨日は挨拶してくれたんだよ…?」
「そりゃすれ違った生徒みんなにするでしょ、生徒会長なんだから」
枝毛なんかないツヤツヤの黒髪ロング、メイクもちゃーんと維持できてますよお姉さん。
だからちょっとくらい悩んだふりしてくれてもいいのに…!
高校で知り合った楓花(ふうか)は、今日も通常運転のようで。
「制服のボタンがズレてるよって心配もしてくれて…!それって私に気があるからじゃないの…?」
「それはただの親切っての」
もっと優しい言葉をかけてくれたっていい。
お色直しが終わったのか、慣れたように肘をついて見つめてきた友達。
「そんなので好きになったの?」
「そ、そんなのって…、あんなの特別だって勘違いしないほうがおかしいっ」
冷静に聞かれると逆に落ち着いてくる。
お弁当の味を感じられるくらいには精神を取り戻している時点で、やっぱり私は恋に恋していただけなんだと。
「相手はイケメン生徒会長の3年生で、毎日スマイルを送ってるような男。そんなの日常茶飯事なのよ」
「……先に言ってよそれ」
「考えなくても分かることなんでねえ。まあ、元気だせ李衣。恋ってのは考えてもないときに訪れるもんよ」