僕の素顔を君に捧ぐ
イケメン俳優のハウスキーパー

家政婦・百瀬優花

百瀬優花の手元は、休みなく動いていた。


真っ赤なパプリカを細く切りながら、フライパンで香ばしい匂いを立て始めたラム肉の焼け具合を確認する。

背後では最新型のオーブンがピーっと鳴り、野菜たっぷりのキッシュが焼きあがったことを知らせた。

赤と黄色の鮮やかなパプリカのマリネを仕上げると、コンソメで煮込んだ野菜をハンドブレンダーでポタージュにする。

家事代行業者の優花は、一時間で11品の料理を仕上げて冷蔵庫に保存すると、洗った調理器具を拭きながら収納し、何もなくなった調理台をアルコールで拭き上げた。


25歳にしてこの仕事のベテランである優花にとって、この程度の作業は朝飯前だ。

ここは、アパレルメーカーを立ち上げた女性起業家、水野洋子が一人で暮らす、緑の多い都立公園を見下ろせるマンション。

顧客である水野洋子は最近、疲れがたまっているせいか表情に元気がない。

彼女がゆっくり休めるように、洗いたてのカバー類を被せてベッドを整え、アロマが好きだと言う彼女のためにラベンダーの香りをディフューザーにセットする。

お風呂が沸いたことを知らせる明るいメロディが鳴り始めたところで、玄関が開く音がした。

「お帰りなさいませ、水野様」

優花は水野洋子を出迎え、上着を受け取った。

「部屋に、癒しの空気が流れてる!」

やり手の女性社長の顔を脱いだ彼女は、部屋の香りに気づくと目を閉じて深く息を吸い、微笑んだ。

「水野様、最近さらにお忙しいようなので、ゆっくり休めるといいなと思って…お風呂も今ちょうど沸きましたよ。お食事もテーブルに用意ができてます。ベッドも布団乾燥機で温めています」

「完璧!ありがとう。じゃあ、お風呂で体をあっためてからご飯食べようかな」

「ゆっくり体、休めてださいね。
…水野様、長い間大変お世話になりました」

部屋に上がった水野は、目を丸くして頭を下げる優花を振り返った。

「そうだった…。優花さん、今日で契約終了なのよね。さみしいわ。私のコンディションまで見極めて細やかに仕事をしてくれる方、初めてだったわ。本当にありがとう」

水野は言って、優花の両手をぎゅっと握った。

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