僕の素顔を君に捧ぐ

お客様はイケメン俳優


翌朝、優花はピンクのシャツの上にダウンのコートを着込み、指定された依頼主の自宅に向かった。

渋谷からほど近い場所にある低層階のマンションは洒落ているが、両開きの門の脇に警備員が立ち、厳重な雰囲気だ。

名前を告げると身分証を確認され、やっとのことで門の脇の小さな扉から中に通された。

マンションのエントランスに続くアプローチには、手入れの行き届いたオリーブの木が、冬の朝日を浴びて銀色に光っている。

磨き上げられたガラスの自動扉の手前にインターホンがあり、部屋番号を押す。

チャイムの音が鳴った直後通話状態に切り替わったが、シーンとした空気が漏れ伝わるだけで返事がない。

「おはようございます。家政婦派遣のグッドハウスから参りました、百瀬と申します」

無言のまま、目の前の入り口が左右に開いた。ダウンのコートを腕にかけ、大理石の床を進み奥のエレベータに乗り込むと、自動的に依頼主のフロアでドアが開いた。

ワンフロアを占拠するらしいその部屋は、重厚な木製の扉が威圧的で、まるで訪問者を拒んでいるかのようなたたずまいだ。


ドアが開き、背の高い男性が現れた。見覚えのある顔だった。優花は思わず息をのんだ。


切れ長の目に茶色く澄んだ瞳。凛々しい眉に、通った鼻筋。ほっそりと形のいい顎。

全身にほんのりと光を纏うような雰囲気に圧倒され、優花はしばらく目を離せないでいた。

「…どうぞ、奥へ」

「あっ、はいっ!」

低いがよく響く声で促され、優花は緊張して部屋に上がった。

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