あなたしか知らない
出会い




***


広宗は、母が転院して治療が始まろうとする頃にようやく京都を訪れた。
昼間なので祐奈は高校にいる時間だったが『これから病院へ行きます』とメールで知らせてくれたのだ。

授業が終わってから急いで病院へ行き、恐る恐る病室のドアを開けた。
母には修学旅行の時に西尾社長と会ったことは内緒にしていたから、ものすごく叱られると思ったのだ。
広宗は東京に帰ったあとだったが、母は優しく微笑んで祐奈を迎えてくれた。

「ありがとう、祐奈」

そのひと言に、母の気持ちが込められていた。
『勝手なことをして』と責められるかと思ったが、母の喜びはそれ以上だったようだ。

「広宗さんからすべて聞いたわ」

急に大学病院に転院することになったのは、昔の恋人が手筈を整えてくれたからだと知って驚いている。

「会えて嬉しかった。まさか、あなたが会いに行ってくれたなんて……」

「お母さんの身体のこと、真剣に考えてくれたんだよ」
「ええ。これから二十年分の埋め合わせをするって言ってくれたの」



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