冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
第二章:ただの同居人

ただの同居人



「……はい、ソファは少し離して右側にお願いします。ベッドはこのあたりで」

七月中旬。
五十嵐さん――改め、駆さんと契約を交わして丁度二カ月が経った今日。
ようやく私は彼のマンションへと越してきた。

結婚というのは、書類ひとつで夫婦になれるというのに、互いの家族を巻き込むものだから簡単に事は進んでいかない。
結納や両家の顔合わせ、結婚記念の撮影などしていたらあっという間に時間が経っていた。
これでも『結婚式とハネムーンは行って欲しい』という両親たちの強い希望を跳ねのけてのスケジューリングだ。


「お疲れ様でした! あとこれ、よかったらどうぞ」
「ありがとうございますっ!」

今まで暮らしていたアパートから荷物を運び出してくれた引っ越し会社のお兄さんたちにジュースを配り終え、玄関でお見送りをする。
駆さんに与えられた部屋が広々とした十畳の洋間ということもあり、今までワンルームにきゅんきゅんに押し込んでいた物たちはゆったりと収まった。オシャレな人は口を揃えて、何でも『ヨ・ハ・ク』が肝だというから――引っ越しを機に、自分の暮らす空間を大人っぽくオシャレに昇華させたい。

「よし、今のうちにシャワー浴びちゃおっと」
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