※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

9.ポンコツ魔女の惚れ薬が予想外に効果を発揮した件について(3)

 そうしてわたしが惚れ薬を最初に使ってから、30日が経った。
 小瓶の中に残っている最後の一吹き。これを吹きかけてから24時間後、キース様のわたしへの恋心は失われる。
 結局最後まで、キース様はわたしにキスしてくれなかった。
 好きだよ、って言ってくれるのに。可愛いって言ってくれるのに。それだけはどうしても許してくれなかった。


「ハナ」


 今日もキラキラした微笑みを浮かべて、キース様がわたしを出迎えてくれる。胸を蝕む罪悪感と、どうしようもない幸福感。小さく笑いながら、わたしはキース様の元へ駆け寄った。


「キース様にお願いがあります」


 彼にバレないよう、そっと惚れ薬の最後の一吹きを吹き付けながら、わたしはそう口にした。キース様は「なに?」って首を傾げながら、わたしのことを見つめている。優しい笑顔に胸が苦しくなって、わたしは首を横に振った。


「明日のお休み、わたしと一緒に過ごしてもらえませんか?」


 この30日間、彼と会わない日は無かった。だって、会わなかったら薬が切れちゃう。だから、わたしがお休みの日も、キース様がお休みの日も、何だかんだ理由を付けて会う様にしていたのだけど。


「良いよ」


 キース様はそう言って、わたしと手を繋いだ。温かい手のひら。涙が溢れそうになるのを必死で堪える。


「楽しみにしてる」


 彼の言葉を聞きながら、わたしはコクリと頷いた。


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