※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

1.恋人になってくれませんか?(4)

*** 


「話があるの」


 ある日のこと。そう口にしたのは、グラディアの親友ロジーナだった。険しい表情を浮かべ、辺りを窺いながらグラディアとエーヴァルトを交互に見ている。


(……ついに修羅場か)


 エーヴァルトはそんなことを思いつつ、グラディアを覗き見た。緊張しているのだろう。その表情は不安げに強張っている。


「なぁ、俺も付いて行っていい?」


 エーヴァルトが尋ねると、ロジーナは眉間にグッと皺を寄せた。どうやらダメ、ということらしい。とはいえ、こんな状態のグラディアを一人にするなど、到底出来そうにない。


「あぁ……ダメなら悪いけど、今は二人で過ごしてるから――――」

「お願い。こんな機会またと無いのよ」


 ロジーナは声を潜め、身を乗り出した。そのあまりの剣幕に、グラディアもエーヴァルトも顔を見合わせる。


「グラディア! ロジーナも! 二人とも落ち着くんだっ」


 その時、この場の状況にそぐわない、間の抜けた声が響いた。クリストフだ。急いでやって来たのだろうか、息が上がり顔面が蒼白になっている。


「今はまだ、二人とも冷静に話ができないだろう? 僕だってそうだ。君たちはもう少し、距離を置くべきだと思う。いつかきっと、二人が仲直りできる日が来ると思うし――――」
「それじゃ埒が明かないって言ってるのよ!
――――もう、この際だから、ハッキリさせましょう。全員一緒に来て」


 そう言ってロジーナはクリストフの腕をグッと掴み、踵を返す。
 クリストフはオロオロと視線を彷徨わせ、ロジーナの腕から逃れようとしていた。けれど、状況がそれを許しはしない。ここにいる皆がクリストフのことを凝視しているからだ。
 エーヴァルトはグラディアの手を握った。身体が小刻みに震えている。


「落ち着け。大丈夫だから」


 耳元でそう囁くと、グラディアはコクコクと頷く。ギュッと握り返された手を引き、エーヴァルトはロジーナの後に続いた。



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