※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか？

（フレデリックさまがあんな風に笑うなんて……）


　いつも非の打ち所がない理想の王子様として振る舞っているフレデリックだというのに、今日の彼は普段の何倍も感情的だ。そんな婚約者の様子に戸惑いつつも、アンジェラはフレデリックから目が逸らせない。心臓がトクントクンと高鳴っていた。


「君の言う侍女っていうのはこの子のこと？」


　フレデリックが言うと同時に、人垣を分け、メイド服に身を包んだ若い女性が躍り出る。


（あっ……！）


　驚きに目を見開くアンジェラに向かって、侍女がそっと目配せをする。そんな二人を余所に、シャーロットが思い切り身を乗り出した。


「その者です！　その者がわたくしの侍女、手紙の代筆者であるルーシーですわ！　彼女が犯人に違いないありません！　
どうしてここに居るのか分かりませんが、良かったわ！　フレデリックさまの元にお連れする手間が省けました。アンジェラさまもこれで、一安心ですわね」


　そう言ってシャーロットはアンジェラの手を取り笑い掛ける。小刻みに震えた手のひらは冷たく、シャーロットの緊張感がダイレクトに伝わってきた。つい先程、アンジェラを糾弾していたとは信じられない、手のひらの返しようだ。


「実はね、シャーロット嬢。俺は君よりも、ルーシーとの付き合いが長いんだ」

「――――え？」


　フレデリックの言葉に、シャーロットは大きく目を見開いたまま硬直する。ルーシーはフレデリックの前に跪くと、深々と頭を下げた。


「彼女はとても良い侍女だっただろう？　短期間で君の信頼をしっかりと勝ち取ってくれた。
ルーシーが教えてくれたよ。君に頼まれて手紙の代筆をしたこと。それに、君の部屋からアンジェラの私物が幾つも見つかったってね」


　そう言ってフレデリックは満面の笑みを浮かべる。シャーロットはしばらく口をハクハクとさせていたものの、これ以上言い逃れができないと悟ったのだろう。ガックリと力なく項垂れた。