※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

21.一目惚れも、ここまでくれば(1)

「初めまして! 突然だけど、君、僕の妃になってくれない?」

「――――――はい?」



 それがこの国の第3王子、アイザック殿下と交わした初めての会話だった。

 サラサラした金の髪に紫色の瞳、人畜無害な柔らかい笑みが印象的な綺麗な人。男女問わず誰もが見惚れ、恋い慕うであろう男性だというのに。


(一体なにがどうしてこんなことになったのか)


 わたしは半ば呆然としながら、アイザック殿下のことを見上げた。


「お待ちください、殿下! その者はわたくしの異母妹――――卑しい血の混じった女ですわ! お恥ずかしい話、父がどこぞの踊り子に手を付けて出来た娘でして、母親と共に屋敷を与えて囲っておりますの。父は異母妹に大層甘く――――こうして貴族や名家の子女ばかりが通うこの学園にまで図々しく入学してしまったのです。
ですから、殿下の結婚相手には全く相応しくないのですわ」


 そう口にするのは、異母姉であるイザベラだ。
 普段は由緒ある伯爵家の令嬢らしく、貴族然とした上品な佇まいをしているのだけど、ことわたしが絡むと、彼女は冷静ではいられなくなる。


(そりゃあそうよね)


 父親が浮気をした挙句、屋敷まで買い与えて入り浸っているのだもの。わたしが彼女の立場だったら嫌に決まっている。

 本当は、異母姉さまと同じ学園に入学する気なんて無かった。出来る限り関わらないよう、視界に入らないように生きていたかった。
 けれど、母と父がそれを許さなかった。


『良い? あなたはいずれ、イザベラに付いて、王宮に上がるのよ』


 それが小さい頃からの母の口癖だった。

 異母姉さまは幼い頃から、ここにいる第3王子、アイザック殿下の妃候補と目されていた。彼女が妃になる時、わたしを召使――――もとい侍女として側に置く――――それこそが母の狙いであり、父に近づいた最大の理由だったりする。



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