※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 アンブラの祖先は、とても美しい貴公子だった。公爵という地位も手伝い、実にたくさんの女性が彼へと群がったし、数々の浮名を流してきた。
 けれどある日のこと、彼は唐突に恋に落ちた。後に、彼の妻となる女性だ。
 愛を貫くため、彼はそれまでに関係を持った全ての女性との縁を断ち切った。その中の一人が暗黒の魔法を操る魔女だった。
 魔女は彼のことを心から愛していた。そして、愛した分だけ、自分との関係を断ち切った男のことを激しく憎んだ。


『他の女を愛するなんて許せない! 幸せになんてさせない! あなたも、あなたの子孫も、皆不幸になれば良いのよ!』


 魔女は男に呪いを掛けた。愛した人が不幸になる――――そんな呪いだった。

 彼の妻は、男子を産んですぐに、流行り病で亡くなってしまった。
 彼等の息子が愛した女性は、乗っていた馬車が崖から転落し、亡くなってしまった。
 次も、その次の代も似たようなことが起こる。
 呪いの効果を疑うには、それだけで十分だった。

 以降、カドガン家に生まれた子は、決して誰も愛さぬよう、言い聞かされて育つようになった。己のせいで誰かが不幸になる――――そんな苦しみを味わわぬように。


 アンブラは、結婚などするつもりがなかった。自分の代でこの呪いを終わらせよう――――そんな風に思っていた。
 けれど、周りがそれを許さない。アンブラは公爵。力を求めて擦り寄ってくるものも多く、放っておくと縁談が山程持ち寄られる。

 ならばと選んだ相手が、没落寸前貴族であったハルリーだった。仮に子を成さずとも、実家から口出しされることは無く、万事において御しやすい。そんな打算だらけの結婚だったのだが、今のところ悉く当てが外れている。



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