※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「は?」


 自然と口を吐いた言葉。けれどそれは、心の奥底に隠していた本音だ。


(このまま結婚生活を継続できる自信がない)


 ハルリーと共に居れば、心がポカポカと温かくなる。陽だまりの中、優しく抱き締められたかのような心地良さに、涙がじわりと溢れてくる。
 彼女を拒むことが苦しい。日が経てばたつほど、苦しくなっている。

 ハルリーはアンブラに『愛さなくて良い』と言ってくれた。何度『愛さない』と伝えても、ハルリーはあっけらかんとした顔で笑う。けれど彼女はいつだって、ありったけの愛情をくれるのだ。


(愛しい)


 どれだけ否定しようとも込み上げてくる感情。
 あの、折れそうな程に華奢な身体を抱き締めたい。触れて、キスして、想いを囁けたら良いのに――――そう、何度願ったことだろう。
 けれど、その度にどす黒い靄のようなものが湧き上がり、ハルリーの身体を蝕むのが見える。


(彼女を危険に晒したくはない)


 そのためには、ハルリーを手放さなければならない。そう分かっているというのに。


 ガタン、と大きな物音が鳴る。扉の向こう。急いで向かえば、そこにはハルリーが立っていた。


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