※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「週末、実家に帰るの」


 両親から手紙が届いた翌日、寮までの道のりを歩きつつ、ノエミはそんな風に話題を切り出した。


「実家に? 随分急な話だね」


 ジュールは首を傾げつつ、ノエミの顔を覗き込む。優しくて穏やかな笑み。ノエミは目を伏せつつ、ゆっくりとその場に立ち止まった。


「わたしに縁談が来てるんだって。週末、相手が家に来るから、挨拶に来るようにって言われちゃった」


 ジュールは目を丸くして、ノエミのことを見つめる。繋がれたままの手のひらが酷く冷たい。ジュールの顔を見れないまま、ノエミはぎこちなく笑った。


「ビックリだよね。これまで誰からも縁談なんて来なかったのに、このタイミングかぁって」


 努めて明るい声音を出したものの、ノエミの声は震えていた。目頭が熱く、壊れそうな程に胸が軋む。


 本当はジュールに『嫌だ』と言って欲しかった。
 ノエミだって、ジュールではない他の誰かと結婚などしたくない。


 けれどそんなこと、言える筈がなかった。


 もしも逆の立場だったなら、或いは望みを口にできたかもしれない。『他の女性と結婚などしてほしくない』と泣き縋って、ジュールを呆れさせて、距離を置かれて、それで綺麗に終わらせることができたのかもしれない。


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