※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

26.女騎士アビゲイルの失態(3)

「お初にお目にかかります。隣国王太子ライアンと申します。以後お見知りおきを」


(何故。どうして。何がどうなって、こんなことに?)


 アビゲイルは表向き凛と佇まいながら、頭の中で叫び声を上げていた。

 ライアンたちに導かれるまま向かった先は、ロゼッタの帰るべき場所。王城だった。

 城に到着するなり、四人は謁見の間へと案内され、現在に至る。


「それで、隣国の王太子殿がどうしてここに?」


 国王は1か月間安否の分からなかったロゼッタの無事を喜び、側近くへ置いている。

 けれど、ロゼッタを城に送り届けてくれたライアンに対する瞳は、どこか厳しいものだった。


(あぁ……きっと噂は本当だったのね)


 町で聞いた噂話――――ロゼッタが婚約破棄をされたというのは真実だったのだ。


(トロイの奴……何が大丈夫、だ)


 アビゲイルの隣にはトロイが涼しい顔をして立っている。無性に腹が立って、アビゲイルは唇を噛んだ。


「僕は我が国の慣わしに則り、結婚前の禊のため、森の奥にあるとある塔に身を置いておりました。そして、そこで僕はロゼリアと名乗る、素晴らしい女性と出会ったのです」

「ロゼリア――――?」


 国王はそう呟きながら、娘の顔をチラリと見る。ロゼッタは頬を紅く染めながら、そっと父親へと耳打ちした。恐らくは己のことだと説明しているのだろう。


「ロゼリアは誰よりも美しく、心根の優しい、僕の理想の女性でした。一緒にいて、こんなにも楽しいと思える女性はいない。幸せだと思える人はいない。――――僕が彼女を恋い慕うまでに時間はかかりませんでした」


 ライアンはそう言って真っ直ぐにロゼッタを見つめると、うっとりと目を細めた。


「けれど、僕と彼女にはそれぞれ婚約者がいました。人生でこんなにも遣る瀬無さを感じたことは無い。ロゼリアが結婚相手だったら良かったのにと――――僕は心からそう思いました。そして、己がどうしようもない馬鹿だとは承知の上で、僕は陛下に婚約破棄を申し入れました。僕は廃太子となり、こちらの姫君には僕の弟と改めて婚約をしていただく、そう思っていました」


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