※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「私に何か御用? ディートリヒ様」


 その時だ。
 ノアの視線に気づいたらしいティアーシャが、そう言って小さく首を傾げる。


「……いや、用という訳じゃないけど」

「でも、私のことを見ていらしたでしょう?」


 さすがは目立ちたがり屋。興味関心、好奇心と言った視線に人一番敏感だ。ティアーシャは嬉しそうに微笑みながら、ノアの元へと駆け寄る。


「私のことで何か知りたいことが有るんじゃございません? 何でも話して差し上げますわよ」

「いや、聞かなくても大体知っているし……」


 いつもそこかしこで誰かしらと話をしているのだ。直接聞く必要は無いように思う。
 けれど、ティアーシャの猛攻は止まらなかった。


「まあ! もしかしてこれ、私?」


 彼女が指さした先には一冊のノートがあり、ティアーシャの姿が繊細なタッチで描かれている。またその周りには、美しい王都の景色や、荘厳な城、愛らしい猫や他のクラスメイト達が、活き活きと描かれていた。


「すごいわ! あなたって絵がとても上手なのね」

「そりゃあ、どうも」


 興奮した面持ちのティアーシャを尻目に、ノアは淡々とそう応える。お世辞でないことぐらい、彼女の様子を見ていれば分かる。ノア自身、ある程度の矜持を持ち合わせており、謙遜する理由は何処にもなかった。


「まるで本物みたい。この猫なんて、今にも動き出しそうね」

「まあ、そう描いてますからね」


 近年流行っているのは、抽象的な絵柄だ。全く別の物にしか見えなかったり、自然界に存在しない色彩で描かれることも多い。ティアーシャが新鮮に思うのも当然だろう。


「そうだわ……!」


 ティアーシャは突然身を乗り出し、瞳をキラキラと輝かせる。何だろうと思いつつ、ノアはまじまじと彼女を見つめる。


「ディートリヒ様、私を描いていただけませんか?」

「…………は?」


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