※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 それにしても、薄々気づいてはいたけど間違いない。
 この男、ドSだ。

 人を痛めつけて、虐めて楽しむ、真性のサディスト。
 まぁ、今のところあたしへの実害は殆ど無いし、良いのだけれど……。


「ときにアイナ。先程、トミーの頬に口づけまでしたのは、少々やりすぎではないか?」

「は? やりすぎ? だけど、本気を出せって言ったのはダミアンでしょう?」


 何よ、それ。あたしだって本当はキスなんてしたくなかったし。 
 だけど、ダミアンが『愛に溺れさせろ』とか『全力で愛を叫ばせろ』とか言うからああしたわけで。


「しろ」

「は? 何を?」

「俺の頬にも口づけろ」

「は⁉」


 全く! 何を言い出すかと思えば、口づけろですって⁉ この男に⁉


「なんであたしが」

「なんで、じゃない。元よりお前は俺のものだ。拒否権はない。しろ」


 ダミアンはそう言うと、あたしを無理やり彼の膝の上に座らせた。

 腹が立つほど美しい白い肌に、彫刻みたいに整った高い鼻。形の良い薄い唇を見下ろしてから、彼の明るい緑色の瞳を見つめる。
 その瞬間、胸の奥が熱く疼くような感覚がして、あたしは静かに息を呑んだ。


「早くしろ」

「――――分かってるわよ」


< 490 / 528 >

この作品をシェア

pagetop