国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
22.心の闇
 ドン、という音がして、彼女の首を絞めていた手が緩んだ隙に、フローラは身を低くしてサミュエルの背後へと回った。
「フローラ、無事ですか?」
 誰が来てくれたのか。わざわざ顔を確認しなくても声だけでわかる。間違いなく彼、クリスである。
「ケホッ……、はい……なんとか、ケホ、ケホ」
 圧迫されていた喉が酸素を取り込もうとすると、違和感があって少し咳が出てしまう。
「彼は、あのときの男、ですね」
「はい」
 ふむ、とクリスはサミュエルに視線を向けた。
 見るからに自我を失っているその瞳は、何かに操られているようにも見えた。
「フローラ、彼は闇魔法で操られているようですね」
 魔力を探らなくてもクリスには感じるものがあったらしい。
 サミュエルは、じっとこちらの様子を伺っていた。
 だが、サミュエルが動き出す前にクリスが何かしらの手を打つだろうとフローラは思っていた。クリスの右手が不自然に動いているからだ。何かしらの魔法の準備をしているに違いない。
「フローラ。闇魔法に対抗できるのは闇魔法しかありません。私には、彼に攻撃を加えることはできても、彼の術を解くことはできません。あなたは、私が彼に攻撃を加えることを、望んではいないのでしょう」
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