国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
28.闇の力
 フローラはクリスの研究室に備え付けてある浴室を借りた。クリスがここで寝泊まりをしていただけあって、必要最小限の設備が備わっている。だが、浴室を借りたまでは良かった。着替えが無いのが大問題である。とりあえずガウンを一枚手渡されたのだが。
「さすがにそのままの恰好では、報告もできませんので、服を乾かしましょうね」
 クリスが風の魔法を使って、フローラが先ほどまで身につけていた下着を含む衣類一式を、ほんの十数分で乾かしてしまった。
「私としては、あなたにそのままの恰好でいて欲しいところではありますが。恐らくいろいろと話を聞かなければなりませんので」
「あ、はい」
 クリスの手によって洗濯されてしまったようなその衣類一式を受け取ったフローラは、手早く着替える。その間に、クリスは温かいお茶を準備してくれていたようだ。
「少し落ち着いたら、行きましょう」
 どこに、と聞きたいフローラだが、先ほどから出ている『報告』をするような場所なのだろう。
 ジェシカが攫われた。しかもよりによって冷牢に閉じ込められ、水まで注がれた。明らかな悪意、いや殺意。
「それで、あなたたちをあそこに閉じ込めたのはどなたですか?」
 静かに問うクリスのその声が、どこか怒気を含んでいる。その怒りは誰に向けられたものか。
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